異世界で暮らし始めました 下
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私、雑賀莉羽がこの世界アルディースに降り立ってちょうど一年。私は十六才になった。
世界中を旅して、最終的には穏やかな気候のポラリスという名の街近くの森に住むことにする。
「ルー、そっちの手が空いたらこっち手伝ってくれる」
「わかった。あと少しで終わるから」
「うん」
森の中の赤い屋根の一軒家。家の周りは開墾して、辺り一面綺麗な芝生にした。この辺り一帯は私の土地だ。冒険者として稼いだお金と、錬金術や薬師として稼いだお金で土地を買ったのだ。
ポラリスの街があるのは、アートランドという名前の国で、ここは王侯貴族が治めているけど比較的自由なところだった。
ポラリスは懇意にしてる貴族が治めている。気兼ねせずに暮らしていけるのはとてもいい。たまにお茶のみに行く程度の親しさで、友達といってもいいかもしれない。
「リウ、なにすればいい」
「今すり潰す作業が終わるから、これとそっちの清水を混ぜて練ってほしいの」
「わかった。終わったら蓬もすり潰して混ぜておけばいいんだろう」
「そう。そうしたら天日干しして、ある程度水分が抜けたら捏ねて玉を作っておいてね」
「ああ」
今しているのは腹痛腰痛に効く薬丸を作る作業だ。本当は魔法でぱぱっと治せるのだけど、それをすると周りの人々が聖女だ魔女だなんだので煩いので、薬師とて薬丸を作るのだ。もちろん完全に治る魔法もかけてある。でもそんな魔法をかけなくてもちゃんと効くんだけどね。念には念を、だよ。
そして、そんな暇つぶしの作業に付き合ってくれているのは私の相棒、ルークス。人化できる猫だ。猫状態の時はロシアンブルー。人に化けると水色の長髪イケメンに早変わり。瞳は猫でも人でも同じ水色だ。推定年齢二十三歳。私にとてもよく懐いていて大事にしてくれる。そういう設定で創ったのだから当たり前だけど。
ルークスは自分がそういう設定で創られたことを知っている。逆に神様代行の私の相棒としてやっていくのが楽しいらしく、創ってくれたことを喜んでくれている変わった猫だ。まあ、私もルークスがいてくれているおかげでとても楽だし助かっているのだけども。
「さてと、じゃあ私は畑のほう見てくるね」
「わかった」
ルークスにそう告げて玄関を出て畑へと行く。家の左側には八畳分ほどの小さい畑が二つあった。このくらいの規模だと家庭菜園かな。
一つ目には、野菜いろいろ。二つ目には薬草いろいろ。種を撒くと勝手に育っていく。一度育った後は、採っても採ってもなくならない魔法をかけてあるから便利だ。
見なくてもわかっていたけど、うんうん。今日も瑞々しい野菜だな。お昼にはルッコラのサラダが食べたいから摘んでおこう。
私は篭にルッコラを採って入れていく。
あとは、そうだなあ。キャベツと人参に玉葱。あとジャガイモかな。シチューを作ろう。
ちなみに、ルークスには食べて悪いものはないように創ってある。だから玉葱も食べられるし。イカだって平気だ。ここは海に面していないので滅多に食べないが。
「午後にはポラリスに行って卸してこないとね」
自分で店を持ってもいいが、それだといろいろと疲れるので専門店に卸すことにしていた。私の薬は良く効くからいつも品切れ状態らしいが、店主に頼まれても私は個数を大目には作らないことにしている。でないと毎日のすることが減るし、買占めする人だってそこまで多くは買わないだろう。使用期限のある薬を大量に持っていても仕方ないし。もちろん、使用期限をなくす薬にすることも可能だけど、それでは薬の有り難味が減るしね。そんなわけだ。
「ルー、そろそろお昼にしよう」
「ならパンケーキでも焼くか」
「うん、お願い」
私とルーは二人並んでキッチンに立つ。手際よく料理を作っていけばあっという間に昼食ができる。テーブル挟んで椅子に座り、いただきます。うん。今日も美味しいね。さすがうちで採れた作物。シチューは多めに作ってあるから、夕食はこれにチーズを乗せて焼いて食べよう。
「さて、じゃあ十四時頃になったら出かけようか」
「その間に瓶詰めしとくか」
「そうだね。買い足し分のメモも書いておかなくちゃ」
ポラリスには週に一度行くくらいだ。その他は念のために各国を巡り歩いて世界の情勢を調べたり、秘境探検したりしている。なにかあればあ介入しないとだし、ある程度は目を光らせておいてる。なにもしないでもっと大きなことにでもなったら面倒だしね。私の住むこの世界で大規模な戦争なんて起こさせないし、魔王なんてものも出さないように、それっぽくなりそうなのは駆除して、なかなか充実したスローライフを送っていた。
なんだかんだ言いつつも、私は神様代行を率先してやっていたりする。自称神様はきっと喜んでるはずだ。
でもこれ、スローライフか? 休みなしのブラック企業な気もしなくもないが。まあいっか。
最近では、神様代行じゃなくて、本格的に神様として活動するのもいいかなって思い始めている。どうせ死なない身だし、時間は無限だし、やること増えてもいいかなって。
でないと、自堕落になっちゃうし。まあそれもたまにはいいけど、毎日だとつまんなくない? 私はつまんないな。楽しいことを求めるのも自分からやっていかないとね。私ってこんなにアクティブなキャラじゃなかったんだけどなあ。自分の行きたい世界に来ると、こうも変わるっていい例だね。
「リウ。薬丸は終わったぞ。あとは買い足しのメモも書いておいた」
「ありがとう。じゃあそろそろ行こうか」
満腹で天気もいいので、いつの間にかうとうとしていた私。ルーに起こされて時計を見ると、十三時五〇分。あと一〇分で十四時だね。出かける準備をしないと。
「戸締りおっけー。泥棒の心配もなし! っと」
「結界張ってあるんだから、入る余地もないけどな」
「気分よ、き・ぶ・ん」
鼻歌を歌いながら森の小道を歩く私とルー。木漏れ日が道を照らしていて、小鳥の囀りも聞こえてきて、とっても素敵な小道だ。たまに兎や栗鼠も顔を出す。私が神様代行ってわかっているのか、動物たちは私を恐れなかった。普通の人間だとこうはいかないからね。
ちなみに街に行くときはルーは猫の姿に戻っている。そのほうがいつも近くにいれるからいいんだそうな。そういえば、この街に来た頃に人の姿でいたら、若いお姉さんたちに囲まれてたもんね。イケメンもけっこう大変なんだね。
「やあ、リウにリークス。週一のお勤めかい。ご苦労さん。あとでミリーが寄ってくれって伝言があったぞ」
「わかった。ありがとう。ダグラス」
ポラリスの街に着いた私たちに声をかけてきたのは門兵のダグラス。中年のおじさんだ。その奥さんは雑貨屋さんを営んでいるミリーさん。
ミリーさんはなんでダグラスさんを選んだのかと問いたいくらいの美人さんで、いまだに中高年からアイドルのように崇拝されている。おかげで雑貨屋さんもいつも人でいっぱいだ。お前ら仕事しろよ、とおじさんたちに言いたいくらい。まあ、優しくて明るいミリーさんは私も好きだけどね。
「蓬の薬丸、一〇入り瓶を一〇〇個。合計一〇〇〇個。たしかに受け取りました、と。いつも悪いねえ」
「いいんです。私も趣味でやってるだけなので、それがお金になるなんて。こっちこそいつも助かってます」
やろうと思えばお金なんてすぐに入手できるけど、私はリップサービスを忘れない。こういう地道なコミュニケーションって大事なのよね。一人、いや。一人と一匹で暮らすようになって、初めて実感したよ。
私は人見知りをするけども、コミュ障ってわけじゃないから、なんとか会話はできる。当たり障りのない言葉を交し合えば、見かけたら挨拶くらい交わす程度の顔なじみにはなれるものだ。そうやっているとお得情報を聞けたりできるし。人と話すって、以外といいものだと思う。
「ふふふ」
「どうしたんだ?」
猫の姿のルーが周りに人がいないことを確認して質問してくる。
いや、なんか平和だなって思ってさ。今のところこうして何事もなく生活できてるから、それを壊したくないって思っちゃうんだよね。見た目も変えることができるから、あと何十年かはこの街で暮らせるし。
知人を失う怖さをまだ私は知らないけれど、いつかその日が来たときは、思い出話をしながら、最後は笑顔で送ってあげたいな。たくさん思い出を作れたら、素敵だよねえ。
それはもちろん、死なない私とルーともね!
「これからもよろしくってことよ」
「はあ? 質問の答えになってない気がするんだが」
「いいのいいの」
私はスキップしながらルーの前を歩く。
今日もいい天気。
ここまで読んでくださり、有難う御座いました。




