魔法石・改
この前四人でホコラの洞窟へ行った時に入手した、霊石を錬金で遊んで見ることにしたんだけど。これってどういうのに使えばいいのかしら。
霊石を摘まんでよく見てみる。うーん。あら、これは。よくよく目を凝らしてみれば、この中には純粋な魂の欠片が入っていることに気がついた。
だけど、魂の欠片なんてなにに使えばいいのかわからないわね。
「ねえ、アラリス。この霊石って、魂の欠片が入ってるじゃない。なにに使えばいいのかな」
「特に使い道はないかな。でもどこかの墓に置いておけば、引き寄せられた霊が、石に捕まって魔物ができるかもしれないね」
「うーん。レイスとかかな。なら魂を開放したほうがいいかもしれないわね。この石に閉じ込められてたら可哀想だし」
私は数百個の霊石を作業台に乗せて、それを覆う結界を張り巡らせる。そうして両手を翳して神力を霊石に注ぎ込むと、ふわふわと閉じ込められていた魂の欠片が、抜け出てきて漂いはじめる。
これを開放すればいいのね。
もういいのよ。あなたたちは自由だから、戻りなさい。結界を解いてそう呟けば、魂の欠片は私の周りをぐるぐる回ると、上昇してすうっと消えていった。お礼でも言っていたのかな。
残った石はどうしよう?
他の霊が入れないように、砕いて捨てたほうがいいかしら。一つを金槌で砕いてみると。あ、中は空洞になってる。他のはどうかな。別の石も砕いたら、それも空洞。そういえば、石の割には軽いわね。中が空洞だったからなんだ。
ん、まてよ。
これ、使えそうじゃない。魔法石よりも協力なものが作れそう。
魔法石は中に籠められた魔法を、魔力が低い人でも使える攻撃手段としてあるものなのよ。たとえば、火の魔法石ならファイアボールが使える。魔物に投げつけても発動するから、冒険者ならいくつかは常備しておくのが普通ね。物理攻撃があまり効かない魔物もいるから、接近戦を得意とする人なんかが、よく持っているの。
でも、石は魔法を籠められる容量が少ないから、あまり強力な魔法は籠められないのよね。だけどこの中が空洞な石ならば、それができるかもしれない。
「エクスプロードでも籠めてみようかな。アラリス、私ちょっと出かけてくるね」
「わかった。いってらっしゃい」
試すならどこかの草原がいいわね。
私は近場の平原へと飛んで行くと、岩に向かって投げつけて、石を発動させてみる。
ドゴオオオオンとすごい音を立てて、岩は砕け散った。
これ、すごい。他に誰か気づいた人はいるかしら。でも、気づいたとしても、魂の欠片を開放する手段がないから、できないか。てことは独占状態よね。売ったらすごいことになりそう。
あ、でも。悪いことにも使えちゃうから、人を選ばないと駄目ね。力に善悪はなく、使う人の心次第だから。
どうしようかしら。
でも勿体無いから、一応は全部の石に魔法を籠めておこうかな。売るか売らないは別として。
あ、ルーに少し持たせておくのもいいかもしれないわね。ルーは精霊だけど、無属性の魔法と、威力が小さい各属性魔法が使えるくらいだから。あまり魔法が得意とはいえないのよね。
私はさっそく全部の石にいろんな魔法を籠めておく。そして異空間から腰付けバッグをだして、別の小部屋くらいの小さめの異空間を繋げてみた。これでたくさん物をいれられるわ。
ついでに、カモフラージュのために、私と皆の分も作っておこう。
魔法石を、ううん。魔法石・改をそのバッグにいれて、あとでルーにプレゼントね。
そういえば、古い武具に、鉱石も少し入手してたのよね。武具は分解すれば少しは鉱石になるし、しておこう。
で、採掘した鉱石は、これはほとんど鉄鉱石と銀鉱石だから、インゴットにして異空間にいれておこう。
「ただいま。ルーは?」
「おかえり、リウ。ルーなら森の中で狩猟でもしてくるって出て行ったよ」
「そうなんだ。じゃあ探してくるね」
森の中を歩いて、私はルーを探す。時々こうしてルーは動物を捕まえてきてくれるのよね。今日の首尾はどうかしら。
目を閉じて気配を探ると、ここよりもう少し北へ向かったところにルーがいるのがわかった。
「……ルー?」
そうっとそうっと近づいていけば、ちょうど鹿に狙いを定めているときで、弓を構えるとひゅんっと矢を飛ばす。
矢は鹿の首に突き刺さった。しばらく鳴きながらもがいてたけど、鳴かなくなっていく。今日は鍋にしようかな。
「リウ。どうした」
「この前のホコラの洞窟で入手した霊石で、作った魔法石を持ってきたの。この石、中が空洞になってて、籠められる魔法を高威力のものにすることができたのよ。いろいろ入ってるから使ってね」
「わざわざすまない。このバッグは異空間か」
「うん。猫の時は首輪になるようにしてあるから、変化しても大丈夫だよ」
血の匂いにつられて魔物が来ないよう結界を張り、鹿をその場で血抜きして解体する。解体したお肉はさっそく異空間バッグにいれることにしたみたい。
私とルーはのんびり家に戻った。
「リウ、帰ってきたか。ポラリスの街で聞いてきたことがあるのだ」
「ルブル。なに、聞いたことって」
「ホコラの洞窟だが、地下九〇階からさらに下へ行く階段が見つかったそうだ」
「わ、やっぱりあったんだ」
でもどうやってみつけたのかしら。
「獣系の魔物をアラリスが増やしただろう。それの影響かもしれん。思いのほか魔物が強く、地下九一階から下へはまだ行けていないようだ」
「そういえば、増やすって言ってたわね」
魔物は順調に繁殖したみたいね。
「なになに。なんの話」
「あなたが獣系の魔物を増やした影響で、ホコラの洞窟の地下九〇階より下へ行く階段がみつかったそうよ。これで先に進めるね」
話し声につられて、家の中からアラリスが出てきた。
「ふうん。僕は最初に投入しただけで、あとは自然に任せてたんだけどなあ」
「そうなんだ。私、行ってこようかな明日。牙や角が欲しいし」
「なら僕も行くよ。投入したのは僕だからね」
「俺とルブルは店があるからな。気をつけて行ってこいよ」
急にみつかった階段。なんだか気になるわね。
翌日、私とアラリスは二人でホコラの洞窟に向かう。入り口は少し賑わっていた。
順番に並んで転移陣を使って九〇階まで来た私とルー。
セーフティエリアに行くとギルド員が、ガイルと話をしている。けっこう切羽詰った感じなんだけど、なにかあったのかな。
「ミーナを見殺しにしろってのか!」
見殺し?
「ガイルさん、どうしたんですか」
「どうしたもこうしたも……って、リウ殿。なぜダンジョンに」
「素材集めよ。私、自分の売り物の素材はなるべく自分で調達したい派なのよね」
「そ、そうなのか」
「それよりさ、なにかあったの? 僕には口論してたように見えたんだけど」
アラリスが聞くと。
「ミーナが、ヴァンパイアに連れ去らされたんだ!」
ヴァンパイア?
それって、あの人の生き血を糧にしているっていう、あの?




