エンシェントドラゴン 上
「大空洞の入り口ってどこなの?」
「どこにでもあるよ。ほら、そこも、あっちも、それも。蟻地獄の巣の場所から地下に降りれるんだ」
「ということは、まずは蟻地獄を倒さねばならないということだな」
「蟻地獄かあ。……ん、なにかいる。って、え! あれが蟻地獄!? でっか!」
体長五メートルはあるでしょうあれ。あの大顎に挟まれたら痛いってもんじゃないわね。体なんて切断されちゃうんじゃないかしら。
何属性が有効かしら。ここ、砂漠だし火や水には強そうよね。寒暖の差が激しいから。土属性にも強そうよね。
雷系ならどうかな。
「サンダーアロー!」
うーん、効いてはいるみたいだけど、効果はいまひとつ?
じゃあ、今度は。
「ウインドカッター!」
あ、弾かれた! なんか強くない?
ええ、じゃあどうしよう。あとは光か闇だよね。
「フォトン」
「アビスボール」
アラリスと私でそれぞれ攻撃してみる。
「あ、大顎が切れた!」
「どうやらアビスボールがいいらしいね。あの魔法、局所的にブラックホールのミニ版を形成するから」
「なら、もう少し大きめのにしたら全部吸い込んでくれるかな」
「そういうことなら俺が囮になるか」
ルーはそう言うと、ざざざと蟻地獄の中心に向かって滑り落ちていく。大顎の片方が切れたから大丈夫かな。
獲物が近づいてきたのを見たのか、片方だけの大顎をジャキジャキ動かして、待ち構えてる。
あと少し、というところでルーが止まった。そして、私特製の閃光弾を蟻地獄に向かって投げた。
ピカって光って蟻地獄はその場でぐるぐるしだしたから、効いたみたいね。
「リウ、今だ!」
閃光弾でもがいてる蟻地獄はもがきすぎて体全体を砂から出したみたい。
じゃあ、いくわよ。
「アビスボール!」
蟻地獄はアビスに飲み込まれて消えていった。よかった、倒せたみたいね。消えたところになにかドロップしたみたいで、ルーは先に中心部に行っちゃった。なに拾ったんだろう。
私たちも行かないとね。
私とアラリスもざざざと中心部へと降りていく。この下に大空洞かあ。すごい広そうよね。だってアースドラゴンが住処にしてるくらいだもの。
「けほっけほっ。砂がひどい」
ぺっぺと口に入った砂利を出すけど、まだ気持ち悪い。私たちは水筒を出して口を漱いだ。きれいになったら一口水を飲む。ふう、生き返る。でも服の中もじゃりじゃりで気持ち悪いなあ。シャワー浴びたい。
「静かに」
アラリスがなにか見つけたみたい。耳を澄ませてみると、ドシンドシンと地響きとともに大きな生き物が歩いている音がした。
もしかしてこの足音ってアースドラゴンかな。
「向こうに巣があるみたいだ。いってみようか」
「俺が先頭を行くから、アラリスは殿を頼む」
「わかった」
相手の音の方が大きいから、私たちはとくに自分らの足音には注意しないで、どんどん進む。天井から流れ落ちてくる砂の音もあるし。
しばらく進んだところでルーが立ち止まる。私たちはそうっと岩壁から覗き込んでみると、砂山のてっぺんに、数個の大きな卵があった。
「あれよね、きっと」
「うん。あれがアースドラゴンの卵だよ」
「あれなら食べ応えがありそうだな」
「あそこにいるのは母親かな。どうにかして卵の所にいければ、異空間にしまってすぐに飛んで逃げられるんだけど」
「また囮を使うか?」
「それしかないかな。なら今度は空を飛べる僕がいくよ。ルーはリウと一緒に卵を。取ったら一緒にあの天井の穴から抜け出してね」
「わかった」
アラリスが出きる限りぎりぎりの距離まで近づくと、アースドラゴンの目に向かって魔法をかけた。
「フォトン」
上手い具合に左目に命中したから、アースドラゴンが暴れだす。私たちはその間に急いで卵の所へ向かった。じゃないと、アラリスも逃げられないしね。
もうちょっと、もうちょっと。よし、この卵を貰えばいいのね。
なんだか可哀想だけどごめんね。私どうしてもエンシェントドラゴンに会いたいのよ。神様するなら太古からいるドラゴンに挨拶くらいはしたほうがいいと思うのよね。
異空間に直径二メートルほどの卵を一つしまうと、私はアラリスに向かって声を張り上げる。
「アラリース! 取ったわよーっ!」
「りょうかーい!」
私の声に反応あり。じゃ、急いでここから抜け出さないとね。
私はルーを抱きしめて、空を飛ぶ。自分の重力をなくして飛んでるんだけど、それを応用すれば重いものだって運べるのよ。
「あった、出口!」
「ああ。……待て。その穴から出ると……」
「ん? なに、聞こえない」
アースドラゴンの声と足踏みの地響き、そして落ちてくる砂の音でルーの声が聞き取れない。とりあえずはここから脱出してから話を聞こう。
ぐんぐん高く飛んで行き、やっと出口だ! って思ったら。
あれ。なにかが邪魔してでられない。なに、なんなの。
「リウ。蟻地獄だ。地下から脱出するには倒した場所からでないと」
「あ、そうか」
でも、なんだかそう言ってられない感じ。落ち着いてきたアースドラゴンが、首をぐるりと回すと私と目が合った。げ。
「だあもう! どきなさい蟻地獄ー! アビスボール!」
私はやけっぱちで唱えると、蟻地獄は飲み込まれていった。よし。やるじゃないの私。
そのままルーを抱えたまま、一気に地表へと出た私は、とりあえず平地まで飛んでルーを降ろした。あとはアラリスが来るのを待つだけね。
「や、お待たせ。無事に卵を入手できたようだね、よかった」
「本当。なんだか大変だったけど、よかったわ」
「で、これからエンシェントドラゴンか」
そうね。次はエンシェントドラゴン。本命だわ。
私たちはルブルルグ山へとやってきた。ここの剣山の中腹に台があるのよね。お土産、気に入ってくれるといいんだけど。
三人で空を飛んで中腹まで一っ飛びをすると、そこには巨大なとげとげのすごいエンシェントドラゴンがいた。首を下げて丸まっているのを見ると、どうやら寝ているみたい。
「や、ルブル。久しぶり」
え、そんなフレンドリーなわけ? アラリスはすたすたとエンシェントドラゴンの口元まで歩いていく。
……食べられたりはしないかな。どきどきする。
だけど、アラリスの声が聞こえないようで、エンシェントドラゴンはグーグー鳴らして眠ったまま。
「アースストーン」
エンシェントドラゴンの頭上に巨大な大岩が出現した。ちょ、アラリス? それってまさか。
ドゴオオン!
とエンシェントドラゴンの頭にクリティカルヒットしたのか、眠っていたエンシェントドラゴンはグルルと喉を鳴らして薄目を開けた。こ、これ怒ってるんじゃ?
なんてことしてくれたのよアラリス!
「我の眠りを妨げるのは誰だ」
うわあ、お決まりの台詞を目を開けながら言うエンシェントドラゴンに感動しつつも、私じゃないから! ってこそこそルーの背中に隠れる私。
だって、すごい巨体なのよ。ロックオンされたくないじゃない。




