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武具製作とオーダー 下

 お貴族様の名前は、コレット・ウェルスナー子爵令嬢だそうだ。馬車で送ってくれる間にカルナーさんが教えてくれた。

 ルーにはオーダーを受けたから、しばらく籠もると伝えて、私は転移陣で家に戻って、さっそく香水作りをすることにした。

 プリンセスローズとはピンクの薔薇で、棘が品種改良であまりないものなんだそうだ。コレット嬢は金髪碧眼のお人形さんのような容姿で、髪はふわふわとカールになっていた。とっても可愛らしいお方ね。


「んー。配合はこんな感じにしてみようかな」


 まずは大き目の密封瓶にプリンセスローズの花冠を入れて、カワリオイルを中に注いで浸す。で、それを振って一日以上漬けておいて、翌日なかの溶液を漉してまた瓶に戻す。

 香りの強さは、花冠を入れる量と、漬け込む日数で調節して、弱中強で三種類。

 三種類の密封瓶に外側から魔力を籠めると、香水の出来上がりっと。


「んー、良い匂い。あのお嬢様には弱の匂いがよさそうだけど、どれを選ぶのかしらね」


 ウェスルナー子爵邸に行く日になった。カルナーさんがお昼過ぎに馬車で迎えに来てくれる。

 オーダーは初めてだから、ちょっとどきどきよね。満足してくれるかしら。応接間へと通された私は、テーブルの上に密封瓶を三つ載せてコレット嬢が来るのを待つ。

 しばらく待つと、コレット嬢がカルナーさんを伴って応接間へと入ってきた。


「香水はできたかしら。あら、それね」

「弱中強で三種類作りました」

「そうね、まずは弱から匂いを試すわ」


 コレット嬢に、真っ白なハンカチにスポイトで弱のを垂らして、カルナーさんに渡す。それに顔を近づけて匂いを嗅いでもらうと、満足そうな表情で微笑んでくれた。可愛らしいわあ。

 次に中、強と嗅いでもらう。


「弱と中を貰うわ。強は匂いがきつ過ぎるもの。弱中を定期的に持ってきなさい」

「かしこまりました」


 よかった。満足してくれたみたい。

 持ってきた香水は、そのままコレット嬢が部屋へと持っていくみたい。メイドさんが密封瓶を二つ持ってついていった。


「こちらが報酬になります」

「ありがとうございます。定期的に、ということですが、お嬢様はどのくらいの頻度で香水をお使いになられるのでしょうか。毎日だと、あの量では半年は持つと思いますが」

「ふむ。それでよいかと。次回は半年後ですな」

「わかりました。今後とも宜しくお願い致します」


 馬車で送ってもらうと、家に帰って紅茶を飲んだ。はあ、なんだか疲れた。粗相しないようにって気を張ってたからかな。

 翌日。

 世界情勢を調べに行っていたアラリスが帰ってきた。


「ただいま。リウ、会いたかったよ!」


 がばっと抱きついてくるアラリスにされるがまま、私は抱き枕のように棒立ち。数日顔見てなかったから私も会いたかった。

 背中をぽんぽんして、よしよしをすると、アラリスは頬ずりしてくる。ふふ、なんだか子供みたいね。


「リウ、これお土産」

「ありがとうアラリス。これはお肉ね、なんのお肉なの」

「これはね、ドラゴンの肉なんだよ」

「へ?」

「食べると滋養強壮にすごく良いらしいよ」

「そ、そうなんだ。ドラゴン見てみたかったけど、まさか、食べることになるとは思わなかったわ」

「これは人語ができないただのドラゴンだから、動物や魔物と同じくくりなんだ。さすがに人語ができるドラゴンを食べたりはしないよ。そんなことにしたら、報復に他のドラゴンがやってくるからね。これは砂漠の市場で買ったんだ。きちんとした大手の商会のものだから、安心して食べられるよ」


 包みを開けてみると、ドラゴンの赤身が。ステーキにしようかな。それでも余るから、シチューに入れるのもいいね。


「じゃあ、今日はドラゴンのステーキとシチューね」


 夕食。

 焼いたステーキはミディアムで頂くことに。うーん、すごい! 肉の甘みがすごい。柔らかくって最高ね。ドラゴンってこんなに美味しかったんだ。へええ、新発見ね。

 シチューで煮込んだ肉も、口の中でほろっとほぐれてとろけるような美味しさだった。ああ、至福。

 ルーとアラリスも無言で食べてるし。本当に美味しいものって、無言になるわよね。


「ああ、食べた食べた。アラリス、すごい美味しかった。ありがとう」

「ああ。また食べたいな」

「なら、また今度見つけたら買ってくるよ」

「お願い」

「あ、そういえばリウ。南のエゾットなんだけど、人語を話せるドラゴンはそこにいるよ」

「え、本当? 見たい、会いたい、話したい!」


 今食べたドラゴンは、会ったというより食べただから、美味しかったけど実感がないのよね。

 人語を話せるドラゴンって、エンシェントドラゴンっていうらしいけど、太古の時代から生きているんだってさ。歴史の生き証人というか、生き証ドラゴンね。


「じゃあ次は南のエゾットね」

「そうだね。ただ、今の時期は砂漠には入れないんだよ」

「え、どうして?」

「バジリスクの産卵時期と重なっているのもあるんだけど、雨季が終わったばかりで流砂ができるから地盤が不安定なんだ。だから旅人は立ち入り禁止になるんだ」

「空飛んでいけばいける?」

「風がすごいからね。竜巻なんかもあるし、あの砂漠の上を飛んでいくのはやめたほうがいいと思うよ」

「そうなんだ。じゃあ、来月まで待たないと無理そうね」

「うん。その頃なら大丈夫だと思うよ」


 すぐに会ってみたかったけど、そういう理由なら我慢ね。

 そうだ。その頃には店も安定してるだろうし、どこかの週で休業して、三人で行くのもいいかもしれないわね。三人でどこかに行くってこと、まだないし。


「へえ、ここがルブルルグ山かあ。けっこう険しい山ね」

「剣山だからね。登山用の装備を整えていかないと難しいよ。まあ、僕らは飛んで行くから関係ないけれど」

「中腹に台があるんだよな。そこにエンシェントドラゴンがいると」

「そう。そこを目指して僕らは行けばいいんだけど」

「だけど?」

「その前にエンシェントドラゴンにお土産を持っていかないとね。いきなり他人の住処にいって、話聞きたいじゃ、失礼でしょ。だからお土産がいるんだ」

「ああ。なるほどな。なにが喜ばれるんだ?」

「そりゃ、卵かな。それもアースドラゴンのね」

「え、ドラゴンなのに、ドラゴンの卵食べちゃうの?」


 それどんなドラゴンよ。


「ドラゴンっていっても人がそう区別してるだけだからね。ああ、つまり。人と猿くらいの違いかな」

「ああ。なるほどねえ」


 じゃあ、エンシェントドラゴンに会いにいく前に、アースドラゴンを探さないといけないのかあ。でもどこに住んでるのかしら。


「アースドラゴンは流砂の中で暮らしてるんだ。この砂漠の地下には、大空洞があってね、そこがアースドラゴンの生息地なんだよ」


 わお。なんだか冒険してるみたいでわくわくするわね。って、してるんだった。

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