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異世界で暮らし始めました 上

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「ごめんね。君が死んだのは手違いなんだ」


 お決まりの言葉を口にするのは、私の目の前にいる自称神様の男の子。

 ごめんねって謝られても私にはどうずればいいのかわからない。

 だって、死んだのが間違いって言われても、はいそうですかってならないでしょ?

 私になにを期待しているのか、自称神様は窺うようにこちらを見ている。


「許すもなにも、どうにもならないんでしょう」


 私がそう言うと、自称神様の目からぶわって涙が溢れ出す。

 やめてよ、泣きたいのはこっちなのに。

 私だって泣き叫んでしまいたかった。でも、先にそうやって泣かれるとできないじゃない。

 パニックになるような状況下で一人が泣き叫ぶと、もう一人は冷静になる、そういうことってあるでしょう。

 この場合もそう。

 だから、被害者の私が泣かずに、加害者の自称神様が泣いている、なんて奇妙なことが起きている。


「泣かないでよ、私が悪いみたいじゃない」

「ご、ごめんなざいぃ」


 ひっくひっくと泣く自称神様は、きらきら光る金髪に零れ落ちそうなくらいの大きな碧眼。色白できめ細やかな肌で、泣いているからか少し紅潮した頬は愛らしさをこれでもかというくらい強調している。

 天使みたいな外見なのに、神様なんだそうだ。


「もういいよ。わかったから泣き止んでくれる。でないと話が進まないじゃない」


 間違いで死んだ、ごめん、許す。

 そんなことできない私には、謝罪を受け取る気は起きなかった。

 だって、そんなのあまりにもひどいじゃない。自分でいうのもなんだけど、私が可哀想だ。

 もう家族にも友達にも会えないし、ゲームも読書もできないんだよ。ゲームはクリア途中だったし、続きが気になる漫画だってあったのに。ネット小説も見れなくなっちゃった。

 これからさきの未来が私にはもうない。


「それでなに。私がここにるのはどんな理由なの? 謝るだけのために呼んだわけ」


 口調がキツくなってしまうのは仕方が無いよね。


「う、うん。君には、別の世界に行ってもらうことに、なってるんだ」

「そう。それで」

「う、うん。えっと」


 私の一挙一動を見ながら、自称神様はたどたどしい話し方で用件を言う。

 なんだか本当に私が悪者みたいで気分が悪い。なんなのよ、もう。


「あなたがそんなだと、被害者の私が悪者になったみたいで気分悪いんだけど。自分で神様だっていうんだから、責任の取り方くらいわかるでしょ。ちゃんとしてよ、もう」


 イライラするなあもう。腕組みをして指をトントンする私。それを見た自称神様はビクっとなった。

 だけど、私の言ったことはもっともで、深呼吸をしたあとは、すっきりした面持ちで私を見る。やればできるじゃない。


「本当にごめんね。君に行ってもらう世界なんだけど、少しでも罪滅ぼしのために、君の中の理想の世界に行ってもらうことにしたんだ」

「私の理想の世界?」

「そう。君はゲームや漫画、小説が好きでしょう。それもファンタジーものの」

「そうね。大好き」

「だから、その世界に君に行ってもらい、そこで送るはずだった未来を過ごしてほしいんだ。生活水準が違うから、日本のような生活はできないけれど……」


 私の理想の世界……。

 私は剣や魔法のファンタジーな異世界でスローライフを送りたかった。そんな理想の生活の願いが叶うってこと?

 でも、そういう世界に行くのなら、なにか身を守るようなものがないと不安だよね。一人で生きてくんだから。


「もちろん、ただたんに君を送り出すなんてことはしないよ。いろいろと特典をつける。でないと女の子の一人暮らしじゃ危ないからね」

「そうね。どんな特典があるの」

「どこに住むかでそれも変わってくるから……君はどんな場所で住みたい?」


 どんな場所。

 そうね、私、人見知りするほうだから、のんびりできるところがいい。たとえば、森の中とか。

 それで、作物を育てながら、趣味で錬金術や薬を作ったり、武器防具を作ったりして、それを近くの街に売りに行ったりしながら生活したいな。

 あとは、冒険者ギルドとかに入って、冒険もしたいし、その時は魔法だってたくさん使いたい。剣で戦うこともしてみたいし、ドラゴンと友達にもなってみたいかな。

 私がやってみたいこと、他にもいろいろある。それらも含めて自称神様に言ってみると。


「わかった。それでいいんだね。他にはなにかある?」

「あとは、あ、猫。人化する猫がほしい。もちろんイケメンになるね!」

「猫? 獣人とは違くて、普通の猫でかな」

「そう。普通の猫。でも、人化できる猫だから、猫の状態で人語ができるといいな。話し相手になってほしい」

「いいよ。なら……そうだなあ。いっそのこと君、神様代行してみない? 話を聞いてると、なんだか神様の能力ばかりだからさ」


 自称神様は良いこと思いついた的な顔をして得意げに言う。

 神様代行? なにそれ。なんかめんどくさそうなんだけど。渋面を作った私に、自称神様は慌ててフォローの言葉を紡いだ。


「全部任せるってことじゃなくて、面倒な部分はもちろん僕がする。君はただ、なんでもできるようになるだけ。たまに何かあった時は解決してほしいけど……それも気が向いた時だけで構わないよ」

「ふぅん。それならまあ、いいかな」

「本当? よかった。じゃあ、君は神様のような力を持っていて、たまには神様代行として何かが起きたら、気が向いた時だけ解決する。これでいい?」

「いいよ」


 なんだかもう、早くその世界に行きたくなってきた。もうそろそろいいでしょ。私をその世界に早く連れて行って。

 これから暮らすことになる世界に行きたくて、私はうずうずしてたまらなかった。


「じゃあ、これから力を送るね。君は神様代行だけど、ほぼ神様のようなものだから。力の使い方には気をつけてね」

「わかった」


 淡い光が私の身を包む。ぽかぽかするその光は、縁側で日向ぼっこするかのような心地良い暖かさだった。まるで、なんでも笑って許してくれるお母さんのよう。私は一滴の涙を零した。


「うん。じゃあそろそろ送るね。君の行く世界の名はアルディースだよ」

「わかった。いろいろありがとう」

「僕のせいだから」


 そう言って、自称神様は両手を広げて空間を開いた。その先には緑溢れる大地が広がっていた。

 私はその開いた空間を通って大地に降り立つ。

 これからこの世界、アルディースが私の生きる世界なんだ。大きく大きく深呼吸をすると、とても美味しい空気で、体がリフレッシュしたみたいだった。


「まずは旅をしてみて。それで好きな所に住むといいよ」

「わかった。じゃあね」

「またね」


 自称神様は開いてた空間を閉じる。今まで見えていた空間は見えなくなり、なにもなくなった。またねってことは、やっぱりまた会う機会があるんだね。


「さてと、まずはどっちに行こうかな」


 三六〇度どこへも自由に行ける。私はどきどきとわくわくで胸が一杯だった。

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