カチュアの恋 続 中
再びやってきたナンダル国。
以前私が来たときは王位継承権やらの影響で、いろいろ落ち込んでいたナンダルだけど、今はそれも解決して持ち直してきてるのよね。
私とカチュアは観光客で賑わっている繁華街へとやってきた。
「おー! いいねこの柄。あ、こっちも素敵」
「これでワンピース作ったら可愛くない?」
「あらほんと。買っちゃおうかな」
「あ、これもいい。これで私の服作ってよ」
「ねえ。君たち、少しいいかな」
きゃあきゃあ言いながら布を織物を買い漁っていると、人当たりの良さそうなお兄さんが私たちに声をかけてきた。
「買い終わったら、一緒にお茶でも飲まない?」
あ、ナンパか。
私とカチュアは顔を見合わせる。観光先で恋に落ちる、なんてのも素敵だけど、今私たちは傷心旅行中なわけで。でも、カチュアに新しい出会いはあったほうがいいよなあ、と、どうしたものかと考えていると、先にカチュアが口を開いた。
「あたしたちでよければ」
「もちろん。君たちがよくて声をかけたんだ」
へえ。カチュアを見ると、片目を瞑ってにやりと笑ってきた。ふうん? まあ、私はカチュアが楽しければそれでいいからね。
「ここのカフェがおすすめなんだ」
「へー、お洒落な外観ね」
「雰囲気もいいわね」
案内されたカフェは白壁に、焦げ茶色の木枠が模様代わりに埋め込まれた、赤い屋根の可愛らしい見た目だった。
路地を少し入ったところにあって、ちょっとした隠れ家って感じ。
「ここのカプチーノは可愛いって女性に人気なんだ」
「絵柄を描いてくれるの?」
「そう。よくわかったね。あまりそういったことはしないところが多いから、知られてないと思っていたのだけど」
「前に一度だけ自分で描いたことがあるのよ」
そう。日本でね。
その後、私たちはカプチーノを注文し、私は猫、カチュアは薔薇の絵柄を頼んだ。お兄さんはエスプレッソだ。
「飲むのがもったいないわね」
「わあ、こういう風になるんだ。あたしの街でもあったら楽しめるわね」
「あ、それいいね。二号店とか出してくれないかしら、ここ」
「気に入ってくれたみたいだね。ありがとう」
「ん、なんでお兄さんがお礼を言うの?」
「実はここ、僕がオーナーをしているんだよ。あと、僕の名前はクルトっていうんだ」
「あ、じゃあ。呼び込みしてたのね。私はリウよ」
「あたしはカチュア」
なるほど。だからこのお兄さんからは下心があるようには見えなかったのね。営業ご苦労様です。
「あら、じゃあちょうどいいじゃない。クルトさん、二号店出す気はないの?」
「うーん、さすがに国を変えてのは大変かな。ここの店も最近軌道に乗ってきたばかりだからね。でも、そんなに好評なら、まずはこの国で出してみてもいいかもしれないね」
「王都がいいかもね」
「そうだね。王都は情報の発信源でもあるし」
その後もたわいない会話をして、私たちは別れた。ほんとにただの客引きだったみたいね、残念。
「ねえ、カチュア」
「なに」
「帰ったらどうするの」
「そりゃあ、お針子目指して頑張るわよ。ゆくゆくは自分のお店を持とうかなって思ってさ」
「いいね、お店。カチュアはセンスいいから、お店持ったらきっと繁盛するわよ」
「ほんと? へへ。じゃあ頑張っちゃおうかな。まずは、帰ったらこの国で買った織物で服を作るつもり。で、市場で売ってみようかと思うのよね」
「へえ、いいじゃない。売り子が必要になったらら言ってよ。手伝いにいくから」
「ありがと」
そっか。カチュアはしっかり将来の目標をたてているのね。
私は、どうしようかな。
とりあえず、神様代行しつつできることを、だから、今のままでもいいんだけど、なんか、カチュアやクルトさんの話を聞いてると、自分で店を持つのもいいかもって思うわ。
それに薬以外にもいろいろ作りたいし。
「私も自分の店持とうかしら」
「いいんじゃない。あんたの薬、うちでも人気あるし。うちに変わらず卸してもらえれば、母さんも構わないって言うんじゃないかな」
「薬もいいんだけどさ、それよりも錬金術で作ったものを売ろうかなって思うのよね。ほら、ダンジョンが大規模になったじゃない。だから、商売敵が来る前に、出したほうがいいかなって」
「あー、そうね。冒険者目当てなら儲かりそうよね」
だよね。
うん、決めた。私も店を持とう。
開ける日は、ミリーさんの雑貨屋に卸しに行く日でいいかな。まずは週一で。
「ならさ、私の作った服を市場で売るときに、一緒にやらない? まずは顔を売らないとね」
「そうね。それもやっといた方が、店を出すときにお客さんに来てもらえるかもね」
なら、ついでに合同出資にして、店舗出すってのもありかも。カチュアの作った服に補助魔法を付与したら、防具代わりにもなるし、売れそう。魔法使いにも喜ばれそうよね。
あとは鍛冶もやって武器防具を作って、補助魔法を付与するのもありだと思うのよね。ゲームでよくあるけど、こっちの世界ではそういうのないのよ。ただたんにそこまでまだ魔法が発達してないのかな。
そんな感じのことを言うと。
「いいじゃない。そんな発想あたしにはなかったわ。付与魔法かあ。そういう使い方もあるのね」
「実際に試してないから、永続して効果が発揮されるかはわからないんだけどね」
「永続できなければ、またかければいいんじゃない? 手数料をとってさ」
「なるほど。その手があったか」
そのほうがリピーター増えるし、売上も伸びるね。
「なにはともあれ、お互い在庫を確保しつつ、市場で稼いで、それからね。店を持つのは」
こうして、私とカチュアは同じ目標に向かっていくことに決めたけど。
肝心なことを聞き忘れてたわね。
「ねえカチュア。レックスのことなんだけどさ」
「ああ、うん。そうね、正直、すぐに気持ちの切り替えはできないかな。だって想ってた年数だって長かったし」
「七年だっけ」
「うん。学校で隣の席になったのがきっかけかな。一〇才の時。最初は一目ぼれだったけど、話していくうちにだんだんとね。だけど、ニコラかあ。あの頃から人気あったもんね、彼女」
「だけど、今は三股か。それ知ってて付き合いたいっていうの、それだけ魅力があるってことなのかな」
「うん。でも、女子には人気なかったけどね! ニコラは女王様気質だから。男侍らせてないと機嫌悪いしさ」
うわあ。話したことはないけど、ニコラってそんな人なんだ。たしかに見かけると、いつも数人の男に囲まれてるのよね。逆ハーってやつか。
「だからまあ、女子からすれば、ニコラに惹かれる男は遠慮しますってやつだったよ」
「そこで判断か」
「レックスだって、最初は違かったんだけどなあ……」
買った織物を宿屋で広げてみながら、カチュアはぽそっと口にした。
うーん。なんでレックスはニコラがよくなったんだろう? その辺のこと、聞いておけばよかったかな。なんか、煮え切らなくてイライラしたけど、なにか理由があったのかも。帰ったら、もう一度聞いてみようか。




