ホコラの洞窟 下
翌日。
「でま参りましょうか」
私とルーと調査隊の人達は、早朝、ホコラの洞窟入り口で集合し、点呼をとった後に、まずは地下五階まで降りていくことにした。ここから先がまだ誰も行ったことのないエリアになる。
今回見つかった地下五階には、更に地下へと降りる階段の前が広場になっていて、そこにベースキャンプを設営することに。
錬金術で作ってきた私お手製の結界石を、四方に置いて発動させると、ピラミッド形の魔物避けの結界が作られる。これでいつでも安全に休むことができると調査隊の隊長、ルドルフさんがお礼を言ってきた。でもまあ、私もそこで休むのだし、お礼なんてされてもねって。こちらこそキャンプにお世話になるのだからと言って、その話は終わらせた。持ちつ持たれつよね。
「第一班と第二班、第三班と第四班と別れて向かいます。定間隔でフラグと結界石一つを置くので、そこを簡易拠点として、休みながら進むように。なにかあれば、この光石を発動させて知らせて下さい」
「了解」
光石は強い衝撃を与えたり、魔力を流し込むと、目を開けていられないくらいの強い光が出る。目くらましや、アンデット系の魔物によく効く魔法石のことをいうの。
二班ごとに分かれて進み、かつ前後で間隔を空けて進む。でも、そんなに離れてないから光石を使えば光が見えるってわけ。ちなみに班は定員五名で、隊長と副隊長、そして私とルーを入れて合計二十四名の調査隊だ。
光石。実はこれも私が錬金術で作ったんだよね。でも強力なものは渡してはいない。今回の調査が終わってからも目をつけられたりするのは困るし。
調査隊の人たちは、学術都市から派遣されてきた、研究者の一団なのよ。だから、知識欲には忠実なわけ。
自分の知りたいことのためなら戦う術を身につけて、どんなとこへでも行くから実は強い。下手な中級冒険者よりも強い人もいるから、護衛なんていらないわけよ。
だけど、未踏のダンジョンで、しかもランクが高い魔物が出るとなると、やはり念には念を入れて、上級冒険者などを雇うこともあるみたい。今回のもそれね。
ただ、残念なことに、上級の冒険者は私とルーしかいないんだけど。さて、調査はちゃんとできるかしらね。どこまでダンジョンが続いているのか私も少し楽しみである。
「こちらの通路は袋小路でした。そちらはどうでしたか」
「こっちは先にまだ進めそうよ。音の反響からして、長くなりそうだったから引き返してきたわ」
「では、そちらはまらそのまま進んでみて下さい。わたしたちは真ん中の道へ行きます」
「わかったわ」
私とルーに、隊長と副隊長。最初は班ごとに一名ずつ指揮役として配置しようとしたのだけど、私たちは遊撃な感じがよかったので、それを辞退した。
でもそれは、今日会ったばかりの人間に指図されるのが嫌な人もいるだろうからってのもある。それで調査隊を乱してしまったらあれだしね。なら最初から別々で行動しいてほうがいいってことになったのよ。
だけど、一応お目付け役として、隊長のルドルフさんが付いてきてくれていた、というより、一班と二班の間に組み込まれた感じかな。
私たちと一班と二班、それをまとめてルドルフさんが指揮をとっている。三班と四班は副隊長が指揮してた。
「こっちは駄目ね。これ以上先へは行けないわ」
「そうだな」
「では戻って合流しましょう」
私たちが行った先は次第に先細っていき、猫がやっと通れるくらいにまで狭まっていた。空振りね。仕方ないからルドルフさんの言う通りに来た道を戻っていく。
そうして第一、第二、私たちの三つが真ん中の道の先で合流することになった。正解の道にはヒカリゴケを置いておき、後続、つまり第三班と第四班はそれを頼りに進んでくるのよ。
「この辺で簡易拠点を作りましょうか」
ルドルフさんがそう言うと、第一班の人がフラグを地面に突き刺して、結界石を設置した。とりあえず一〇分の休憩をとることにした私たち。
水筒の水を飲んでから、壁に蛍光チョークで簡易マップを描いておく。これは冒険者がよくやることなんだけど、こうして描いておけば情報を共有できるのがいいのよね。こういったマップは自分たちの命にも直結してるから、間違いは描かないし。
それを見てたルドルフさんは、なるほど、と呟いていた。この調査隊は羊皮紙に描き込んでいくやり方みたい。
休憩が終わり、私たちはまた先へと進んで行く。
もし更に下へと降りていく階段が見つかれば、地下六階があるということで、それはつまりこのホコラの洞窟は中規模ダンジョンとなる。私としては長く潜りたいから、長めのダンジョンであってほしいわね。
「やはり地下へと続く階段があったようですね。これで現段階で、中規模ダンジョンと確定しました。ここにベースキャンプ二を設営します。その後、後から来る第三、第四の班と交代です」
私の祈りが通じたのかこのホコラの洞窟は中規模ダンジョンへと昇格した。
ちなみに道中戦っていないのは、ただたんに魔物が警戒して襲ってこないからだったりする。まあ、これだけの大人数で進めばそうなるわよね。
後続と合流した私たちは、そのままベースキャンプ二で休憩する。二時間立てばキャンプを撤去し、奥へと進むことになっていた。
「どこまで続くのかしらね」
「さあな。だがまだまだ続きそうだぞ。闇の精霊が活発だ」
「うん。私もわかる。なんだかそわそわしてるのよね」
「まあ、闇の精霊は人に滅多に出会うこともないし、珍しい俺たちを観察してるってももあるな。あとは、中規模ダンジョンですまない場合、か」
闇の精霊が活発な場所は、大抵中規模ダンジョンからなのよ。その数も多ければ大規模ダンジョンの可能性も高くなる。今回は多いと言っていいのかどうか。微妙なところね。
六体の闇の精霊がふわふわ漂っているんだけど。でもこれ、挨拶しに来てるのよね多分。私が神様代行だからだと思うんだけど。あとはルーもいるし。私たち二人がいるから、逆に判断に迷うというか。
そんなことを話ながら二時間が経った。
簡易拠点を作りつつ、目印を頼りにして進んでいけば、役一時間半程でベースキャンプ三を設営して待っていた第三、第四班が見えた。今度は私たちがこのまま進んで行く。
そうして地下七階、八階、九階と進んで行き、三日かけて一〇階まで降りてくることができた。地下七階辺りから、魔物も強くなってきていたから、この人数でも襲われることとなる。
ビッグラット、ポイズンスネーク、キラーアントは地下五階までなので、出てくることはない。かわりに別の魔物のポイズンワーム、アンデッドラット、ルートブラッドが出る。
ポイズンワームはその名のとおり、毒を持った長虫のこと。アンデッドラットは死んで腐敗したビッグラットにアンデッド化させることができる寄生虫が宿ったのをいう。そしてルートブラッドもその名のとおり、血を啜る魔物化した根っこだった。
「ファイアソード。……はあっ」
魔物がこちらに襲い掛かると、ルーが率先して倒すため、私の出番はほぼない。ルーが今までどれほど暇していたかわかる。ごめん。これからはもっと連れ出すから、その剣の矛先を向けないでね。頼むからさ。血の滴る剣を持って笑われるとさ怖いのよ、あんた美形なんだから余計ね。生き生きしてるもんだから調査隊も引いてるじゃない。
そうしてベースキャンプ六を私たちが設営し終え、あとは後続が来るまで待つことに。
目の前には更に下りる階段があった。
なんとホコラの洞窟は長い長い大規模ダンジョンへと確定したのだった。
「大規模ね。これからマカロス伯爵は大変になるわね」
隣の領地、アドラス伯爵領にも余裕で地下で進んで行けていた。
なぜわかるのかというと、前もって調査隊の人たちが、魔力棒を定間隔で地表にさしてあって、地下の対の魔力棒とが垂直になるにつれて点滅するからなの。これで完全に光れば、その地点に地下で到達したってことがわかるのよ。
そして、そうすれば、一番近い位置で光った魔力棒の場所から、人力で階段を上へと掘っていき、地表に出たところは隣の領地、ということだ。そこが二番目のダンジョンの入り口、ということになる。
これである程度住み分けもできるわけ。初心者から中級者はポラリス側から。中級者から上級者はアドラス側から。
旨みとしては後からダンジョン経営に参加できるアドラスの方が早く下へと潜れて、魔物もランクが高いからドロップするものも美味しい。でも、収益の五分の一をマカロス伯爵に渡すことになるから、結局はとんとんかな。
「結局、地下何階まであるのかしらね」
この大規模ダンジョンとなってしまったホコラの洞窟が、地下何階まであるのかが、まだわからない。
けれど、今回の調査はここで終了となる。一〇階にくるまでに六日かかっているので、そろそろ引き返さないといけないのだ。食料と水があと片道分しかない。
私たちは、この先を立ち入り禁止にして、皆で互いを労いあいながら、地表世界へと帰っていくのだった。
今度はアドラス伯爵領からの入り口を作ってから、また調査隊が派遣されてくることになる。その時には、上級冒険者も集まってくるはずだ。だから、私たちが参加することは多分これっきりかな。
あとは、個人で楽しむために潜ったりはするけどもね。闇の精霊も気になるしさ。




