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神話物語  作者: 縦院 ゆい
第二章 勇者とドラゴン
7/8

勇者の物語~星空は輝いていた~

 僕とレイがテレポートしたのは、以前レイが『首輪』によって僕たちを襲ったあの場所だった。

 僕はレイを見る。レイは相変わらずエネルギーの蛇を暴走させていた。

「レイ、しっかりして! 僕の声が届いているなら、返事をして!」

 紅い瞳がこちらを見た。

――――――あれ……? レイの目って、あんな色だったっけ……?

「勇……者……」

 レイはそう呟くと突然、スキルを使い始めた。

「『原典神話』第三章、黒き雨をまといし(ドラゴン)、発動せよ」

 砂鉄が集まってレイの背中に黒光りする羽を作り出した。

――――――第三章のドラゴン……?どうしてそんなやられキャラをわざわざ使うんだ……?

 しかし、ゆっくりと考えている暇はない。

 頭上には、黒い円陣がゆっくりと回転していた。

――――――まずいっ! 早く、ここから離れないと……!

 レイが式に向けて伸ばしていた手を、まるで糸を引っ張るように動かした。

 その式から、大量の砂鉄が針のように降ってきた。

 僕は走ってギリギリのところでよけた。

 地面に突き刺さった砂鉄はまた式を作り、何度も僕を襲う。

 このまま逃げ続けても、きりがない。

 前を向き、スキルを使用する。

 炎の塊を放ち、砂鉄を融かそうと試みる。

 融かすことは叶わなかったものの、レイの制御から解くことはできた。


 あらためてレイと向き合う。

「早く、レイを返して」

 僕はレイの周りの蛇を睨む。

「これ以上、レイ、自分を否定しないで!」

 僕は、ある式―――以前自分が暴走させてしまった式―――を発動した。

「『原典神話』第三章より、勇者の手に、相応の武器を」

 右手に細い火の棒を握る。

 その手は細かく震えていた。

――――――怖い。でも、もう後戻りは、出来ない。

 僕はレイの右翼を目指して走り始める。

 それに反応して、レイが式を新たに作り出す。

 先程と同じ式だが、量が増えている。

 棒を盾に変形させるが、量が多すぎて耐えられるのもほんの数秒間だけだった。

 盾が破壊されて僕は吹っ飛ばされる。

 砂煙が二人の視界を遮った。

「……大口叩いた割には、大したことな――――!」

レイは前を見て驚き、言葉を止めた。

「……無傷……だと……!」

 僕は何事もなかったように立っている。

 しばらくレイは僕を睨み付ける。

「……あぁ、そういうことか」

 レイの蛇が隠れていた僕に向かって飛んできた。

 よけて、棒で蛇を焼き消した。

「蜃気楼、か。上手くできているが、オレには通用しない。なにしろ、ベースエネルギーの反応が無かったからな」

「さすが、レイ。一筋縄ではいかないね」

 僕はレイの前に立つ。

「三筋ぐらいでもいかねぇんじゃねぇか?」

「だったら、四筋ならどうだい?」

 僕は伸ばした棒を地面に突き刺す。

 地面と空に、炎で式が描かれた。

「僕が考えもなしに隠れるとでも思う? ばれると分かっているものをわざわざ使うと思う?」

「まさか――――!」

 もうすでに式は完成している。この式を破壊するにも、レイには時間は無い。

「すべては、この式のためだ」

 棒をさらに伸ばして、空にある式と接続する。

「『灼熱の海(レッド・ライト)』黒い心を消し去れ!」

 真っ赤に燃え盛る炎が、地面と空からレイを襲う。

 眩しい光と熱風がその場を支配した。


「これで……収まってくれ……!」

 さっきの突風のせいで眼鏡がどこかにいってしまったが、別に視界に異常はなかった。普通にはっきりと物が見えていた。

 その目がはじめに捉えたのは、レイの蛇だった。

「まだ、暴走しているのか……!」

 黒い羽は消えていたものの、蛇はそのまま残っていた。

「オレを、殺す気か?」

 ベースエネルギーの壁で、身を守ったようだ。

 なぜか、笑っている。怖い。

「まぁ、オレは化け物みたいなもんだから、何ともねぇけどな」

 レイがゆっくりと近づいてくる。

―――――妙だな・・・。暴走って本人は言っていたけど、意識もちゃんとあるし、エネルギーに振り回されている感じはしないんだけど・・・。

 エネルギーが暴走していたのはほんの最初だけ。エネルギーというよりは、感情に振り回されているような気が……。それに、普段とは全然違う、まるで別人の様。こんな状況で怪しい笑みを浮かべるなんて……

 そこまで考えて気づく。

「まさか……君は、二重人格なのか……?」

 レイが足を止める。

「それ以外に、何があるんだ? お前は、今のオレを消して、もう一人のオレを守ろうとか、思ってんだろ?」

 レイは掌にエネルギーの小さな球をつくる。

「言っておくけど、今のオレだって『レイ』なんだ。いつもお前と話しているのも、今目の前にいるのも。二重人格と言ってもいろいろあってさ、完全に別人のようで勝手に振る舞うやつもいれば、オレみたいに『レイ』の中の一部に過ぎないやつもいる。」

 笑みは一転し、憎しみや悲しみを含んだ瞳で僕を見る。

「オレは、レイ(こいつ)が普段押さえつけている感情だ。本当は、自分を今まで苦しめた世界を壊したいのに、誰も傷つけたくないからって、我慢してやがる」

 その球を握りつぶした。

「オレは、こんな世界なんか大っ嫌いだ。悪いやつばっかで、全部壊して、消し去りたい……!」

 手はさらに強く握られた。


 唐突に思う。君にも、世界の美しさを知って欲しいと。悪いものばかりではない、ということを。

「僕は、この世界は好きだよ」

 僕は空を見る。既に太陽は沈み、星が光りはじめている。

「確かに、嫌なこともいっぱいあるし、君の言っていた『危ない世界』を垣間見て、正直、怖かった。でも、この世界にあるのはそれだけじゃないはずだ」

 もう一度、レイの方を見る。

「この世界が無かったら、僕は今まで泣いたり笑ったりすることが出来なかった。君と出会えなかった」

「……オレに……会ったから……こんなことになってんだろ……!」

 エネルギーの蛇がこちらを睨む。

「何を勘違いしているんだい? 僕は一度も君に会ったことを後悔しているなんて、君が嫌いだなんて言っていないよ」

 僕はレイのそばへ行く。


「もう少し、周りをよく見てみなよ。全部を否定する必要なんて、どこにもないんじゃないかな?」


 紅い瞳から雫がこぼれ落ちる。

 その雫が蛇を消していく。

 レイはその場に座り込んで泣き出した。

 僕はそっとレイを撫でた。



 しばらくして泣き止んだレイは立ち上がった。もう、目は普段通りに戻っていた。

「……悪い……迷惑……かけた……」

「気にすることないよ」

 レイは涙を拭う。

「もう、だいぶ遅いな……送ってくよ」

「テレポートはやめてね。海に道連れで落ちたくはないから」

「な、何を言い出すかと思えば……!」

「だってこの間言ってたじゃないか。遅刻しそうでテレポートしたら間違えて海に落ちたって」

「忘れろ! 今すぐそれを忘れろ!」

「いやいや、無理だって」

「ソウトの意地悪!」

 僕は笑って空を見る。

――――――今日はいつもより星が綺麗だな。

 いつもレンズ越しだったから、今日の方が綺麗に輝いているようだった。


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