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神話物語  作者: 縦院 ゆい
第二章 勇者とドラゴン
6/8

勇者の物語~乗り越えた時~

 次の日になって、レイは学校に来た。

だけど、僕とは一言も話さなかった。

 

 一応、レイに言われた『宿題』はやった。でも、その真意が全く分からない。ただ分かったことは、レイにもらった『解釈書』と教科書の解釈は、違うところが多いということだけだった。


 ホームルームリーダーの仕事を終えたときには、空はすっかり紅くなっていた。

「もう、こんな時間……。早く、帰ろう」

 鞄を持って、急いで校舎から出た。

「……誰だろう? こんな時間に」

 校門の前に誰かが立っていた。

 その人が僕に気づく。

「すみません、ちょっと聞きたいんですけど」

 その人は毛先が金髪の、淡い緑色の髪をツインテールにした女の子だった。

「この人がどこにいるか、知りません?」

 少女は一枚の写真を見せてきた。

「え……」

 そこには、僕のよく知っている人物の写真。ただ、髪の色が白で、瞳の色が紅い、レイだった。

「その様子だと知っているみたいですね。どこにいるか、教えてくれません?」

――――――ひ、人違い、だよね……。だって、レイの髪はどう見ても黒だし……

「ごめんなさい。僕はその人は知りません」

――――――仮に知っていたとしても、こんな怪しい人に教える訳がない。

「嘘つかなくていいですよ。だってさっき、驚いていたじゃないですか」

「いや、本当に知らないんです。だって、僕、そんな髪の色をした人、知りませんから」

「そうですか。髪の色違ってもいいんで教えてもらえません?」

――――――この人とは、関わっちゃいけない……!

 脳が危険信号を発する。

「ごめんなさい。僕、急いでるので――――」

「教えてくれないなら、誘きだそうかな」

 突如、電撃が放たれた。

「レイはベースエネルギーに敏感だから、派手に暴れたらすぐに気づくだろうね♪」

 僕はポケットから紙束のついたキーホルダーを取り出そうとしたが、手から落としてしまった。

 慌てて拾おうとするが、炎が僕を襲う。

「なるほどねぇ。あなたはそれがないとスキルが使えないんだね」

 別に、使えないわけではない。――――でも、それはとても怖い。滅多なことが無い限り、使うつもりは、ない。

「つまんないなぁ」

 さらに氷の刃が飛んでくる。

――――――ヤバイかも……。このままじゃ、僕は怪我じゃ済まないかも……!

 僕は少女に背を向け走る。

「えー、逃げちゃうの? もっと遊ぼうよ。スキル暴走させたら?」

 電気が僕の真横を通過する。

――――――どうしよう……どうすれば……!

 突然、少女は僕の前にテレポートしてきた。

「逃がさないよ?」


 僕にとって、チャンスだった。


 すかさず拳を握り、少女の腹に叩き込んだ。

「……っ……!」

 少女の体のバランスが崩れる。

 すかさず背負い投げをして、さらに首を締める。

 少女が僕の腕を掴む。

「動かないで。首の骨、折るよ」

 腕に少し力を入れる。

「僕はどうやったら骨が折れるか、知ってるから」

 そして、力を緩める。

「君は一体、何の目的でレイを狙うんだい?」

「……あなたには……関係……無い!」

 突然、テレポートされて僕の腕から消えた。

 少女はお腹を押さえながら僕を睨む。

「あなた……気に入らない!」

 電気が放出される。

 僕は背を向け逃げる。だけど――――

 轟音と共に、背中に何かがぶつかり、僕は宙に吹っ飛ばされた。

 あまりの衝撃に、僕は気を失った。

――――――その直前に、誰かの叫び声が聞こえた気がした。




 学校に行ったが、ソウトは何も言ってこなかった。

ただなんとなく、ソウトを傷つけてしまったような気がした。

――――――謝るべき、だよな……。

 クセなのか、オレは少々きつくものを言ってしまう。

――――――でも、あれくらい言わないと、ソウトを危ない目に遇わせてしまうかもしれねぇよな。

「もう、ソウトとは話せないな……」

 少し、さみしかった。


 あの時――――手錠を外してもらってからは、オレは研究所と関わることは無くなった。研究者がオレを捕らえに来たとしても、今はもうどこの研究所にも所属しているわけではないので、暴力なりなんなりで全て突き返していた。

と、いうわけで、今まで研究所にいた時間がいっきになくなって、暇になった。特にやることもなく、ただ毎日ソファの上で寝っ転がっているだけだった。

 

「ん?なんだ?」

 いつの間にか寝ていたみたいだが、そんなことはどうでもいい。今、明らかに何かあった。

 ベランダに出る。

 目を閉じて、エネルギーの流れに集中する。

――――――学校の近くで、誰かがスキルを使ってる……! 相当強い……!

 少なくとも、Sランクは越えている。そのくせ、警察とかは駆けつける様子もない。

 おかしいと思ったオレは、その場へテレポートした。


 到着した直後、雷に似た音が響いた。――――――電撃が、放たれたのだ。

 電撃の向かった先には、自分のよく知る人物、ソウトがいた。

――――――誰だ……!

 電撃の放ったやつを見ようと首を後ろに向けた。

「ソウト!」

 叫ぶが、遅かった。スキルも間に合わない。

 ソウトは圧縮された空気の砲弾によって吹っ飛ばされた。


「……あーあ、やり過ぎちゃった。まっ、仕方がないよね。あっちが悪いんだから」

「……ふざけてんじゃねぇよ、何様だ、てめぇは」

 緑髪の少女の前に降り立つ。

 全身にエネルギーを纏う。

「お前、研究所の人間だろ?」

 左手を伸ばす。

「一般人に、手を出すな」

 その手にエネルギーが集まる。

「ただで済むと、思うなよ」

 一気に放つ。

 だが、余裕そうな顔で避ける気配もしない。

――――――ヤバいっ!!

 慌ててその場から逃げる。直後、その場を炎が通った。

「今のは、まさか……」

 エネルギーレーザーが当たる直前、薄緑の光の壁が出現し、レーザーが吸収された。そして、炎となって放たれた。

「これは『スキルチェンジ』。あたしのスキル」

「聞いたことねぇな」

――――――いや、そんなスキルは存在するはずがねぇ。あれは、おそらく……

「今度はこっちの番ね!」

 大量の氷の弾丸を飛ばして来る。

「……ふざけんじゃねぇよ。オレはてめぇと遊んでんじゃ、ねぇんだよ!」

 エネルギー弾を飛ばす。


「『原典神話』第二章、天命から外れし天使の羽、発動せよ!」


 エネルギーが紫電へと変わり、レイの背中に羽を形作る。

―――――変換系のスキルは、変換できるエネルギーの量が決まっている。それを越える量のエネルギーをぶち込めば、勝てる。

「罪を犯してなお、守りたいもののために堕ちた天使は、全ての壁を貫く」

 両手を伸ばす。

「『神をも貫く意志の槍(バイオレット・ランス)』障壁を貫け!」

 両手に握るは紫電の大槍。それを少女めがけて突き刺した。

 大量の火花が散り、激しい風が吹き荒れる。


 ふいに手応えが無くなった。そのときには、少女はもうどこにもいなかった。


 舌打ちをする。

「……くそっ、逃げられたか……」

 スキルの使用を解除した。


「……レイ……」

 僕が気がついた時には、あの少女はもうおらず、代わりに目の前にはレイがいた。

 どうやら、助けてくれたみたいだ。

「ソウト、怪我してないか?」

 僕が起きたことに気づいたレイが、そう僕に声をかけた。

「大丈夫。特に痛いところはないよ」

「そうか」

 レイは近くに落ちていた紙―――写真を拾った。

「そういうことか……」

「どうしたの?」

 ソウトは立ち上がった。

「……ごめん、ソウト。また、巻き込んだみてぇだ」

「何が?」

「あの女に聞かれたんだろ?オレの居場所かなんかを」

「うん……まぁね……」

 レイはソウトに背を向ける。

「次、誰かにそういうこと聞かれたら、オレの住所でも教えてやれ。また、こんな目に遇うぞ」

「それはできないよ。友達を売るような真似はできない」

「……昨日言ったばっかじゃねぇか。オレたちの世界に足突っ込むなって」

 その言葉が昨日のうやむやが爆発させる。

「なんだよそれ! 危ないって分かっているんだったら、そんなところに行かなくたっていいだろ!?」

 レイは振り向く。

「てめぇにわかるもんか!」

「分かるわけないだろ!」

 僕はレイの胸ぐらを掴む。

「君はいつも一人で何もかも全て背負って、誰にも何も相談してくれない。だから君は、誰にも理解されないんだよ!」

 レイが腕を掴む。

「好き放題言いやがって、ふざけんなよ、ソウト!」

 僕の手を無理矢理引き離す。

「てめぇみたいに平和に生きてるやつに、オレのことを理解してもらおうとも思わねぇよ! そんなやつに、助けも理解も求めねぇ!」

「そのせいで、あんなことが起きたんだろ! 君が研究所の実験台にされているって誰かに相談していれば、あんなことは起きなかった!」

 レイの顔色が変わる。ソウトから目を離し、斜め下を睨む。

「……お前だって、一緒じゃねぇか。オレは知ってんだ。お前は以前、スキルを暴走させて怪我人を出した。何でそんなことが起きた? それは、お前がいじめられていて、その事を誰にも話さずにストレスを溜め込んだからだろ!? オレと少しも変わらねぇだろ!」

 僕は思い出す。レイの言う通りだ。そのせいで僕はクラスメイトを傷つけ、紙の束(あんなもの)に頼らないとスキルが使えない。

「……そうだね。あのときの僕は、今の君と何も変わらない。一人で全部、抱え込んでいた」

 だから、僕はレイにはそうなって欲しくない。

「でもね……だからこそ、僕はもう二度とそういうことはしない。もう僕は、後悔したくない」

 レイはソウトを睨む。

「だったら何でお前はまだ、スキルが使えねぇんだ? どうして未だに、スキル補助装置(サポーター)なんかに頼ってるんだ? そんなひ弱なやつなんかに、オレのことなんか一言も話せねぇよ」


「なら、僕がサポーター無しでスキルが使えたら?」

 

 僕は、賭ける。

「僕は一言も『サポーター無しではスキルが使えない。』なんて、言ってない」

 数秒の沈黙。

「……嘘つき」

 先に口を開いたのはレイだった。

「じゃあ何で、今まで使わなかったんだ?」

「使う必要が無かったからだよ」

「さっきは? さっき使っていれば、気絶なんかしなかったんじゃねぇのか? オレが来なければ、お前は死んでいたかもしれねぇよ」

「……怒らせちゃったみたいで、使う隙がなかった」

「言い訳か。みっともねぇな」

 僕は右の手のひらを上に向ける。

「僕が使えたら、君のこと、教えてくれる?」

 手も声も、震えていた。

 レイは僕にに背を向ける。

「やめときな、ソウト。また暴走でもしたいのか?」


「……構わない。君にはもう二度と、一人で全部を抱え込んでほしくない。」



 突然、レイが自分の左腕を押さえた。

「レイ? 怪我でもしてたの?」

「……ソウト……今すぐオレから離れろ」

 苦しそうに声を出していた。

「どうしたの……?」

 レイは僅かにこちらへ緋色(・・)の瞳を向けてきた。

「ヤバい……暴走……しそう……」

「ど、どうすればいいの?」

「早く……どっか行け。こんなみっともねぇ姿……見られたくねぇんだ……」

「で、でも……」

「お前が近くにいると……襲いそうになるんだよ。誰もいなければ……少し物を壊すだけで済むんだ……」

――――――どうしよう……! 絶対、このまま放っておいちゃいけない……!



「どうせオレなんか、救われねぇんだよ!!」



 レイの叫び声と共に、エネルギーの槍が放たれ、近くの壁や物を破壊する。

「す、少しじゃ無いだろ……!」

 思いっきり道路に穴が空いてるし。

「どうせオレは、誰にも理解されない化け物だ! もうオレに関わるな! 消え失せろ!」

 数本の槍が僕に向けて放たれ、僕は慌ててその場から逃げる。

 また道路に大穴が空く。

「レイ! 落ち着いて! 君は化け物なんかじゃない!だから――――」

「うるさい! うるさい! うるさい!! 全部消え失せろ!」

 エネルギーがレイに、まるで蛇のようにまとわりついていた。そして、その蛇が色々なものを破壊していく。

 その余波からはっきりと、あるイメージ――レイが過去に経験した痛み――が伝わってきた。嫌でも解る。

――――――レイは、ずっと化け物扱いされてきて、誰にも理解されず、ずっと一人ぼっちで苦しんでいたんだ。そしていつしか、自分から他人と関わるのを避けるようになってしまったんだ。どうせ理解されないなら、自分から他人に関わるのを止めようと……

「正直、ここだとまずいな……」

 まず、物が壊れてもいいような、何もないところに行かないといけない。スキルを使うのが怖いとか、言っている場合じゃない。このままだと、学校が壊れてもおかしくない。

「テレポート……いける!」

 僕たちは森へとテレポートした。

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