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神話物語  作者: 縦院 ゆい
第二章 勇者とドラゴン
5/8

勇者の物語~目の前の壁~

 熱い。

 目の前が赤い。

 何が、どうなっているんだ?

 あたり一面、赤い。赤い何かが、ゆらゆらと揺れている。

 何で、何も分からないんだ?

 どれだけ目を凝らしても、その、赤く熱いものが何か見えない。

 赤い何かが大きく迫ってくるにつれて、僕の頭が何が何だか分からなくなってくる。

 間近まで迫ってきて、ようやくそれが何かが理解できた。

――――――炎だ。僕が発生させた火の成れの果て。

 募る恐怖。

 口から悲鳴が溢れる。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 視界から炎が消えた。


「夢、か……」

 妙に疲れていた。汗をかいていて、シャツが体に張り付いて、気持ち悪かった。

「……最悪だ……」

 まだ、朝の4時だった。


 シャワーを浴びに1階に降りた僕、ソウトは、珍しく起きていた父に声をかけられた。

「よぉ、ソウト。おはよう。珍しく早いなぁ」

「父さんこそ」

 僕は、自分の悲鳴で父を起こしてしまったのではないかと不安に思う。

「いやぁ、実は、新しい遺跡のカギをつかんでさ。いてもたってもいられないというか……。ほら、遠足の日はわくわくして早く起きてしまうだろ?あんな感じさ」

 僕の父は考古学の教授、研究者である。遺跡とかに関しては子供のように好奇心を示す。

「ふーん。それはいいけど、あんまり派手に騒いで体を壊さないでよ」

 僕はシャワールームへとリビングを通り抜ける。

「ソウト。お前こそ、無理はするなよ」

 僕の背に向けて、父はそう言った。

――――――無理なんか、してないよ。

 心の中で、こう答えた。


 朝、学校に行く前に僕は病院による。別に、僕が体のどこかが悪いというわけではない。

 2週間ほど前、僕のクラスの問題児、レイが、どこかの研究所(?)の人たちに操られ、その反動で体調を崩して入院している。

 僕とレイはさほど仲がいい訳ではないけど、やっぱり誰も見舞いにいかないのはかわいそうだと思う。

――――――本音を言うと、放っておくとろくなことをしないから、見に行っている。

「レイ、おはよ……っ!!」

 病室に、レイの姿がない!!

 ちょうどやって来た看護師さんに尋ねる。

「あの……レイは……?」

「レイさん? いると思うけど……」

 看護師さんはレイのいないベッドを見て驚き、慌てた様子で連絡をしに行った。

「……脱走、か……」

 僕はため息をついた。


 放課後になって、僕はレイの家に行くことにした。

「ソウト! オレも行きたい!」

 レイの家について何も知らないトアがついてきた。

「やめておいた方がいいと思うんだけど……」

「何で?」

「いや……あそこはかなり治安が悪いからさ……。怪我するかもしれないよ?」

 トアがそれでも行くと言い張るから、つれていくことにした。

「テレポートとかで行けないの?」

「うーん……間違えたら怖いから、やめておくよ」

 歩いていくにつれて、だんだんと雰囲気が悪くなる。そして、いつも通り(?)不良たちにからまれた。

「ホントだ。こりゃ酷い。よくレイはこんなところに住めるな。引っ越したくならないのかな?」

 いつもの僕なら逃げるんだけど、今日はトアがいるため、トアが片っ端から電気ショックで気絶させていく。

「……ダメでしょ、それ」

「大丈夫大丈夫。正当防衛だし」

「あとからの逆襲が怖い……」

 僕たちは壊れかけでボロボロのアパートに入った。


 4階に着いたとき。

 急に中央の部屋――――レイの家の戸が開き、人が飛び出してきた。

 柵にぶつかり、激しい音が響く。

 その人はフラフラと立ち上がると、よろよろと逃げていった。

「「……」」

 トアよりも酷い人が存在した。


 開けっぱなしのドアから僕たちは中を覗きこむ。

「……こりゃまた、大変だな……」

 部屋の中はかなり荒れていた。物が壊れていたり、スプレーで落書きされていたり……

「ソウト、トア、おはよー。ってか、もうこんにちはの時間か。時計もねぇから何時かよく分っかんねぇな」

 ソファの上でレイは寝っ転がっていた。

「もうすぐこんばんはの時間だよ、レイ……」

 脱走した挙げ句に寝ぼけていて、もう呆れるしかない。

「そうか。確かにもう夕方みてぇだな」

 レイが起き上がった。

「で、こんな時間に何しに来たんだ?」

「お見舞い~」

 トアが気軽に言う。

「あぁ、そいつはどーも。なんももてなしできなくて悪いな」

 そして僕たちの横を通り抜け、靴を履く。

「レイ、どこ行くの?」

「どこって、コンビニかなぁ。お腹すいたし」

 そして鍵もかけずに出て行こうとする。

「ちょっと、鍵は!? ってか、僕たちどうするの?」

「ん? あぁ、そこにいたけりゃそこにいていいぜ。何もないけどな」

「せめて鍵ぐらいかけようよ。また荒らされるよ?」

「あぁ、その点は大丈夫。盗まれるもんは何もないし、大事なもんにはちゃんと難易度高い鍵をかけてあるから。それに、オレはもうすぐここ出てかなきゃいけないみたいだし」

「大事なものって、なになに?」

 トアが興味津々だ。

「トアには微妙かもしれないなぁ」

 そう言って土足のまま中に入り、ソファをひっくり返した。さらに、下にひいてある絨毯をどける。

 床下収納らしい。鍵は十桁の数字錠のようだ。

「これ、数字錠に見えるけど、ベースエネルギーの鍵なんだ。世界でただひとつの鍵、開け方はオレしか知らない」

 レイの手が数字錠に触れる。すると電子音がして、ふたがスライドし、階段が現れた。

「……これ、レイが作ったのか?」

「さぁね」

 レイは下に降りていった。


 灯りが自動でついた。

 大量の本。

 レイはその中から無造作に一冊引き抜き、僕に投げ渡した。

「見ても……いいのかい?」

 表紙には『原典神話 第三章』と書かれていた。

「そのために渡したんだろーが。そいつは本物のレプリカだ。文章もそのままのせてある」

「そのままって……かなり危ないだろ!?」

『原典神話』の本物は、文字列自体がスキルになっていて、触れた相手のベースエネルギーを使い、実力のない者に開かせないような仕掛けがあるらしい。

「んなもんここに置くわけねぇだろ。ちゃんと封印(エネルギーの流れから強制的に干渉を絶ち切る処理)してあるわ」

 僕は恐る恐る表紙をめくる。中から文字列と挿し絵が現れる。

 僕の家にも、父さんの仕事上、『原典神話』のレプリカは置いてある。でも、文字列までそのままの物はない。

 見慣れている文章なのに、初めて見るような感覚がする。手が、震えていた。

「どこに置いたか……あ、あったあった」

 さらに二冊の本を取りだし、僕に渡す。

「宿題だ。全部読んでこい。出来れば、教科書の解釈と比べてこい」

二冊の本はそれぞれ『原典神話 第三章』の訳と、解釈書だった。

「あ、こいつもだ」

 さらにもう一冊。これも解釈書だ。

「いや、こんな大事なもの借りるわけには――――――」

「いいんだよ。役に立てばそんなもの、なくたって構わない」

 一体、レイは僕に何させるつもり何だろう?

「レイ、何でこんなにたくさん本があるわけ?」

 トアが呆れたように聞く。

「さぁな。気がついたらこうなってた」

 返事を聞いてさらに呆れる。

「気がついたらって……何してんの?」

「翻訳と解釈。個人的趣味でやってんだ。そうだ、こいつも一回整理しないとな。出てかなきゃ行けねぇからな」

「で、オレに宿題はないの?」

「ない。もう出るぞ」

 そして、部屋の外に出た。


「ソウト、少し言いたいことがある」

 レイがトアには聞こえないよう僕にささやく。

「トア、一人で帰れるか?」

「え? 何で?」

「オレ、ソウトにまだ用事あるから」

「え~。オレだけはばちかよ」

「悪いな」

 ウダウダ言うトアをレイは追い出すように帰した。



「ソウト、お前、無理しすぎだ」


 その言葉に、僕は内心、ドキッとする。

「そんなこと、ないよ」

「嘘つき」

 レイが僕を鋭い目で見る。

「あの時――――オレが操られていたときも無理して戦っていたくせに。あの時は全力じゃなかったからまともに相手にできていたわけで、もしあれが、暴走したオレだったらどうなってたんだよ!? 怪我とかそういう問題じゃねぇ。下手すれば、お前は死んでいたのかも知れねぇんだよ!」

 思わず後退りしてしまう。

「ただでさえお前はスキルの使用に抵抗があるんだろ? だったら下手に戦わず逃げればよかったんだよ! いつもそうだろ!? 何でオレの時は出来ねぇんだよ!」

 レイがいきなり僕の胸ぐらをつかむ。その弾みで、手に持っていた本が落ちてしまう。

「答えろよ! ソウト! 何であの時、あんな危険な真似をした!? 何で一般人が、ただの学生が、あんな危険なことに首を突っ込んだ!? 何でオレを助けようとした!?」

「……っ……」

 上手く、言葉にできない。

「遊び半分で、オレに関わるな! オレたちの世界に、危ない世界に半端な気持ちで足を踏み入れんじゃねぇよ!」

 レイは僕から手を離し、そしてその場にへたりこみ、咳き込んだ。

「……ごめん」

 僕はその場から離れた。

 家から出ていく直前、突然、本が降ってきた。

「忘れ物。宿題は、ちゃんとやれ」

 僕は黙って、本を持ったまま家に帰った。


「意味が、分からないよ……」

 レイの言葉の意味が、分からない。

「『レイの世界』、『危ない世界』……」

 口に出してみる。どこかで、誰かに言われたことがある気がする。

「あぁ、お兄ちゃんか……」

   僕の兄は、僕よりも10才も年上だ。

   今はもう、家にはいない。

   僕が8才の時、家を出ていってしまった。

   確か、そのときに言われたんだ。

   『ここから先は、危ない世界だから、みんなを巻き込めない』

   こっそりベッドから抜け出した僕に、兄はそう、告げた。

「なんだよ、『危ない世界』って。分かってるなら、そんなとこに行かなきゃいいのに……」

 うやむやとしたまま、僕は眠りについた。

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