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神話物語  作者: 縦院 ゆい
第1章 鎖が外れるとき
3/8

始まりの物語 ~首輪が外され……~

 オレがこの学校に来て3週間ほど、だいぶ慣れてきたころ。

 突然、レイが学校に来なくなった。無断欠席らしい。先生は一度、レイの家に行ったそうだが、鍵は開いたままで、でも誰もいなかったそうだ。

 

 今朝、先生たちは忙しそうだった。何とも、校門の前で男子生徒1人が誰かに襲われたらしい。その生徒がいうには、襲ってきた人物は男子で、色あせたジーパンに白いカッターシャツを着ていて、少し長い黒髪だったそうだ。

 この特徴に、オレは心当たりがあった。ソウトにも聞いてみたけど、同じ答えが出た。

 たぶん、「レイ」だと思う。

 でも、なんで……?


 突然、ソウトの携帯が鳴った。オレは

「電話?」

と聞いた。

「ああ。ルナからだ」

 ルナというのは、ルナート・ツィス・ランダールという女子のホームルームリーダーのことだ。

 電話のスピーカーからルナの焦った声が聞こえてきた。

『ソウト! どうしよう! 何かレイの様子がおかしいよ! 私、どうすればいいかわからないよ!』

「ルナ、落ち着いて。いったい何があったんだい?」

『朝、学校に来た時にレイが男の子を攻撃してて。そしてやめたと思ったら急に森の方に走って行っちゃたの。1回見失ったんだけど、さっき見つけて、声かけようと思ったんだけど、なんか様子がおかしいの。座り込んで震えていて、『助けて』とか言って泣いているようで、どうしようと思ってソウトに電話したの』

「ルナ、そっちに行くから、位置情報送って」

『私はどうすればいい?』

「とりあえずレイがどこか行かないように見てて」

『わかった』

そして、電話が切れた。数秒後、ソウトの携帯に位置情報が送られてきた。

 ソウトが立ったとき、オレはソウトの手を掴んで、言った。

「オレも、行く」

ソウトが驚いた顔でオレを見て、それから首を横に振った。

「いや、トアはここで待って――――――」

「いやだ」

オレはソウトの言葉を遮る。

「レイを、助けたい。泣いているんだろ?」

「でも……」

「ソウトだって、レイを助けたいんだろ?行くなら一人よりも二人の方が絶対いいはずだよ」

ソウトはしばらく黙って、それから

「わかった。でも、絶対危ない真似はしないで。自分の命を最優先させて。いいね?」

といった。

「ああ」

 オレとソウトは校舎から走り出す。目的地は、裏山の、森。


 オレは走りながらレイについて聞いた。そして、頭の中でまとめてみた。

 レイのスキルは、ベースエネルギーを扱うこと。

『ベースエネルギー』は、『スキル』を使うためのエネルギーのこと。誰でも持っているものなのだが、そのまま扱うには素質が必要なため、ベースエネルギーそのものを扱える人はほとんどいない。普通は、この『ベースエネルギー』を『何か』に変える。これが『スキル』。オレの場合は、『電気』だ。(実際、オレはエネルギーを電気に変えているっていう感覚はないんだけど・・・)

 そして、レイのスキルのランクは「SSランク(ダブルエス)」。ランクというのは、スキルの力の大きさのことで、「SSランク(ダブルエス)」が最も上で、「Sランク」「Aランク」「Bランク」「Cランク」「(ゼロ)」と低くなっていく。ほとんどの人はBランクで「SSランク(ダブルエス)」は滅多にいないらしい。(ちなみに、ランクの基準はスキルや年齢によって違う。)このランクは年に一度の「スキル検査(テスト)」によってつけられる。

 レイを一言でいうと「超とんでもないやつ」だな。


 オレ達はルナのところについた。レイがいたのは、森の奥。道に迷った人ぐらいしか来ないようなところ。大きな木の下で顔を膝にうずめていた。

「レイ、どうしたの?」

 おれはレイの肩を軽くたたいた。すると、レイは勢いよくオレの手を払い、こう叫んだ。

「来るな!」

 オレはレイの肩を持ち、無理やり顔をあげさせた。

「レイ!何があったんだよ!?言ってくれなきゃわから――――――」 

 突然、「ピー」という電子音がした。

 そして、レイの瞳が変化した、ような気がした。 

 嫌な殺気が、オレにまとわりついてくる。

 ヤバイ、と思った時にはもう遅い。

 オレのすぐ目の前の地面が爆発した。

 オレは慌てて後ろに飛びのいた。

「トア君、大丈夫?」

とルナが心配してくれた。

「オレは大丈夫だけど……レイは……」

 立ち込める砂煙の向こうで、レイが立ち上がるのが見えた。

「来るよ」

ソウトが言った直後、青白い何かがオレの真横を貫いた。

「い、今のが……」

「レイのベースエネルギーだよ。でも、おかしいな」

 ソウトが左手を振った。いつの間にか中指に指輪がはめられていて、そこからチェーンと薄赤色の正方形の紙の束が動いて、ソウトの目の前に来た。

 ソウトが紙を一枚破り、投げた。その紙は炎に包まれ、そして爆発した。火の粉がレイに降りかかる。だが、レイには火傷一つつかなかった。――――――全て、レイの生み出したベースエネルギーの剣によって凪ぎ払われた。 

「やっぱり、おかしい」

と、ソウトはつぶやいた。

「何が?」

 ソウトが何かを言うよりも早く、レイがベースエネルギーのレーザーを発射してきた。

「とりあえず、レイを止める!!」

 オレはレーザーをギリギリのところでかわし、そしてレイに向かって手を伸ばした。その手が、スタンガンと同じぐらいの電圧の電気を帯びる。

 あと数センチ、その距離まで近づいたとき、レイを中心に青白い爆発が起きた。

「っくそっ……。近づければ……」

 ルナが右手を挙げた。

「空間内特定人物のベースエネルギーを――――――」

ルナが『空間制御(ルームコントロール)』(一定の空間内のベースエネルギーをコントロールするスキル)を使うため、式を唱え始めた。

 そこにレイがベースエネルギーのレーザーを発射した。

「ルナ! 危ない!」

オレは電気の槍を放った。

 レーザーと槍がぶつかって、爆発する。

「何で、レイがオレ達を攻撃するんだ?」

 オレはふと、あることに気づいた。ーーーーーレイの首の右側で緑色の光が明滅していることに。

「あれは……?」

 ソウトに聞いてみた。

「スキル補助装置(サポーター)の一種かな? 首輪みたいだけど。でも、レイはそんなもの持っていないと思ったけど……。」

 オレはわかった。何でレイがオレ達を攻撃するのかということが。

「ソウト! あの機械が原因だ! あれさえ壊せれば、レイを助けられるかもしれない!」

 オレはルナに言った。

「磁場って、操れる?」

「トアがつくったものなら確実だよ」

 続いて、ソウトに言った。

「レイの動く範囲をできるだけ狭くできない? できれば、前後だけに」

「了解」

 オレはアームカバーから金属の棒を2本、取り出した。

「ルナ、いくよ」

 右手の棒から電気を放ち、磁場を発生させる。

 そして、ソウトの氷の攻撃を受けているレイに向けた。

 まず、1発。出力はスタンガンほど。首を反らされた。

 続いて、2発連続。出力も上げて、普通の雷ほど。これも、ギリギリのところで避けられた。

「ルナ。2本目、いけるか?」

「たぶん、大丈夫」

 オレは左手の棒をさっきと同じようにしてからレイに向けた。

 そして、レイの首の左右を狙う。

 2度、雷の落ちたような轟音が響いた。――――――オレが電気のレーザーを2本、発射した音だ。左右の差はほとんどわからないほど。右がわずかに速い。出力は右がさっきと同じ、そして左がオレの最大出力の8億ボルトの40万アンペア。

 一直線に駆け抜ける2本のレーザー。

 右のレーザーはやはりさっきと同じように避けられた。でも、その直後に来た左のレーザーが、首輪の機械に直撃した。

 レーザーによって弾き飛ばされた黒い破片が宙を舞い、留め具のなくなった首輪が地面に落ちた。

 そして、首輪から解放されたレイは、その場に崩れ落ちた。

「レイ!」

 オレはレイを抱き起こした。レイの体はものすごく熱くなっていた。

「レイ! しっかりしろ!」

 レイはぐったりとしてなんの反応も示さなかった。

「トア、病院に行こう。こっちだ!」

 オレらは全力で走り出す。


 気がついたら、目の前で人が倒れていた。思わず、怖くなって逃げ出した。

 気がついたら、森に来ていた。木の下で腰をおろした。

 本当は、わかっていた。自分がやってしまったこと。

 さっき、誰かと目が合ったんだ。そのあと、なぜか勝手に攻撃してしまったんだ。

 気がついたら、身体中が痛くて、熱くて、苦しかった。

  助けてよ、苦しいよ、熱いよ、痛いよ……。


 気がついたら、ベッドに寝かされていた。

「レイ、大丈夫?」

という、トアの声が聞こえた。

「!!」

 慌てて目をつぶって、布団を頭までかぶった。

「どうして隠れちゃうんだよぉ?」

 布団の中から答えた。

「だって、オレ、人と目が合っちゃうと、その人を攻撃しちゃうんだ。ヤだよ。誰も傷つけたくない」

「その心配はいらないよ」

 ソウトの声が聞こえた。

「レイ。首輪はトアが外したから。もう、レイが誰かを攻撃することはないよ」

 自分の首を触ってみた。包帯が巻いてあった。

「だから、隠れなくていいよ」

 布団から顔を出してみた。トアと目が合う。

「レイ、ごめん。首輪を壊すときに、電撃が少し首に当たっちゃったみたいで、火傷させちゃった」

と、トアはオレに頭を下げた。

「ありがとう、助けてくれて」

 二人にお礼を言った。

 そして、安心したせいか眠くなってきた。目を閉じようとしたとき、トアがこんなことを聞いてきた。

「そういえば、レイってケータイ、持ってる?」

「持ってるけど……」

「メアドとか、交換しよ! オレ、ここに来てまだ誰とも交換していないからさ。」

「えっ……オレなんかで……いいの……?」

 トアは大きくうなずいて、手を差しのべてくる。


「よろしく、レイ」


 オレは左手を伸ばした。


 『友達』という言葉を聞いたのは、本当にひさしぶりだった。今まで、ほとんど言われたことがなかった。

 でもオレは、この『友達』もすぐに終わってしまうことも知っている。

 だって、「ヤツら」がもうすぐ来るはずだから……。


 夜の暗い病棟。数人の足音が響く。

 その足音はある病室の前で止まる。

 病室の戸が開けられ、頭のてっぺんから足の先まで銀色に光るボディスーツを身につけた5人が中に入ってきた。

「全く……こんなところで寝ていたのですか。家に行ったのにどこにもいないので、ずいぶんと捜したのですよ?」

というフィルターを通したような、年齢も性別もわからないような声が聞こえた。

 顔もヘルメットのようなもので覆われているため、誰が言ったかわからない。

 ベッドには、男子にしては少し長い黒髪の少年。目を閉じている。

「ところで今、あなたは眠っているのですか? それともただ目を閉じているだけですか? まさか、死んでいるとか言わないでくださいよ?」

「……死んでたらここにはいねぇよ」

 少年は目を開け、半身を起こした。

「いや、最後のは冗談です」

 誰かが嗤う。

 少年は「てめぇらに冗談は似合わねぇな」と吐き捨てるように言った。

「で、何の用事だ? その様子だと、あれか、回収か」

「ご名答です」

 中央のヤツが手をたたく。


「おい、1つ聞いていいか?」

「何でしょう?」 

「なぜ、オレの学校を襲わせたんだ?」

 相手の顔は見えない。しかし、少年は相手が笑っているような気がした。

「大勢の人を襲いたかったら、都会の真ん中にオレを置けばよかったんだ。子どもを襲うにしても、もっと大きな学校にすれば被害が大きくなるはずだ。なのに、なぜ? なぜ、オレの学校なんだ?」

 誰かが不気味に笑った。

「本来なら答えてはいけないのですが、特別に教えましょう」

 中央にいるヤツがベッドに近づいてきた。

「理由は2つあります。1つ目はテストだからです。失敗して大事になったら困るのですよ」

 ヤツは人差し指を伸ばした。

「二つ目はあなたにストレスを与えるためです。あなたに知人を襲わせることで、あなたを傷つけるのです」

「何で……?何が、したいんだ?」

「それは、言えません」

 クックックッという笑い声がした。

「ふざけんな!」

 少年はベッドから飛び降りた。

「そんなことをして、何の為になるんだ!?」

 そして、一番近いところにいたヤツに殴りかかる。

 だが、そいつは素早く避けると少年の両手首に何かをはめた。

「ぅああぁぁぁぁぁぁ!」

 少年は崩れ落ちた。

「あなたは我々には逆らうことはできませんよ」

 不気味な笑い声が響く。

「その『手錠』は『首輪』よりも強くあなたをコントロールしますよ。抵抗しても苦しいだけだと思いますよ」

 少年は震える手足を使って、なんとか立ち上がる。だが……

「もう、時間です。『回収』しましょう」

 突然、少年の体から力が抜け、ドサッとその場に倒れた。

 銀色の手が、少年の体を強引に持ち上げる。

 バタバタと、外から足音がした。戸が開かれ、中に看護師が入ってきた。

「大丈夫ですか?!レイ……さん?」

 部屋には誰もいなかった。


 ただ、開かれた窓から夜の風が入ってくるだけだった。


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