仲間
翌朝。木に縛り付けたカルアも逃げることなくそこにいた。
隣にはティアが座り込んでいる。
どうやら昨日の夜の頼みごとを聞いてくれているようだ。
「カルアさん・・・でしたよね」
「あぁ、ダークエルフのカルアだ」
「貴方はあの集落の人たちをどうしたんですか?」
「闇に食わせた。あんなやつら、ああなって当然だ」
闇に食わせたとはどういうことだろうか。
ゲームだった頃にそういう魔物や召喚魔法は存在しなかった。
「闇って、どういうことですか?たしか冥府への扉は常人には開けることは出来なかったはずですが」
オレには何の話かまったく理解できないが、この世界にはオレのいた世界とは別に、他にも違う世界への扉があるらしい。
こちらの世界の住人であるティアは当然知っているようだが。
「簡単なことだ、人の生き血や身体の一部、もしくは魂を代償にして無理やりこじあけるのさ。我らダークエルフの存在は人間より高位にある。生き血だけでも短い時間なら扉を開けることくらい容易い」
なるほどなるほど、二人の会話は実に勉強になる。
「でもなぜそんなことを・・・ 冥府に人を送り込んだら、あちらの世界の魔物に骨や魂までも食べられてしまうんですよ?」
冥府というのは、日本に伝わる地獄と同義な場所だろう。
永遠の時間の中で苦しい拷問、さらには鬼に身体を食われるという。
そんなところには行きたくもないが。
「では私からも聞こう。我らダークエルフの若い娘をさらい、貴族や金持ちに奴隷として売るような連中を放置しろというのか?」
「あの集落の人たちがそんな事をしていたと?」
「娘よ、何も知らないようだな。考えてもみろ、こんな森の中でいつ魔物がでてきてもおかしくないにも関わらず、こいつらはここにいる。野生動物もいない、特産物もないこのような場所でなぜ暮らす必要がある。答えは簡単だ。人目に付かない場所にいる事が必要だからだ」
「そうだったんですが・・・」
この質問に関してはこれティアも深く聞けないようだった。
奴隷にされるという事はどういうことか、ティアも知っている。
それにしてもこのダークエルフ、仲間を救うために集落を襲ったというのか。
でもそれでは辻褄が合わない。
オレを脅した理由も、野党と手を組んでいたことも。
まぁそれにも理由があるんだろう。
とりあえずこいつの言うことも一理ある。信じてみよう。
「それと、宗一様を見てなぜ化け物と言ったのですか?普通の人間ですよ?」
ティアよ、さすがにその言い方は悲しいものがある。もぅちょっと良い感じの言い回しにはできないものかね。
「お前はあの目、持っていた武器、男の首をあっという間に切断する力と技量。それを目にしてまだ分からないのか?あれはバーサーカーそのものだ。我らダークエルフにもその存在は神話として伝わっている」
「確かに獣のような赤い目はバーサーカーのそれでした。でも私の問いかけで元に戻ったんです。それを考慮すれば違うと思います」
バーサーカーね。異常なまでに強い戦士っていう事くらいしかオレには分からないけど、こちらではどういった扱いなんだろうか。
「娘よ、お前にもいつか分かるときがくる。あいつはバーサーカーだ、それいがいの何者でもない」
ここでそろそろオレも話しに加わるとするか。
「おはようティア。それとカルアもな」
「おはようございます宗一様。お一人で起きられるなら、これからもそうして頂けると非常に助かります」
笑顔の裏にある顔が怖いよ。そんな含みのある笑顔を向けないでくれ。
「さすがに話声が聞こえれば目も覚めるよ。これからもティアが起こしてくれ」
カルアが変な目でこちらを見ている。
こういう会話が珍しいのだろうか。
「バーサーカーというのはこういうものなのか?まるで普通の人間ではないか」
カルアは自分の知っている狂戦士とのギャップに驚いているようだった。
「オレは普通の人間だ、そして狂戦士でもない。人を化け物呼ばわりするのはやめてくれないか」
「その点は謝っておく。大変申し訳ない、ここに謝罪する」
木に縛られている姿だが、カルアは深く頭を下げた。
「身勝手な願いだとは思うが、この場で私を斬ってくれないだろうか」
この女何を言っているんだ。
「私とてダークエルフの女だ。思い半ばで捕らえられ、このまま牢獄で人の何倍もの長い時間を生きるくらいなら・・・」
「分かった。ではオレがこの場で楽にしてやる」
縄を解き、木から開放してやる。
両膝地面につけた状態で座らせた。
「それじゃあいくぞ。一瞬だ、痛みは無い」
「ありがとう、感謝する」
オレは昨日手にもっていた刀を抜き、上段から一気に振り下ろした。
刀は綺麗な弧を描き、空を斬った。
「お前、女だからと愚弄する気か」
カルアは涙を流しながら俺を睨み、歯を食いしばっている。
「宗一様ならきっとこうなると分かっていました」
ティアはニコニコしながらオレの腕に抱きついた。
「カルアさん、あなたはここで死にました。だからここで開放です。でも約束してください。もう人殺しはしないって」
大粒の涙を流すカルアはか細い声で答えた。
「私の家族や仲間はすでに一人もいないのだ。言っただろう、若い娘は奴隷にされ売られたと。他が助かったとでも思ったか?助かったのは私一人だ。他にもダークエルフの町や集落はあるだろう、でも私に帰る場所はもぅないんだ」
ここまで追い詰められているとは思わなかった。
こんな美人が盗賊の頭をやっている事自体変だとは思っていたが、まさか天涯孤独だったとは。
それにしてもアンヌの村は非人道的な方法で成り立っていたんだな。
俺たちの住んでいた町の近くにこんな場所があったなんて、ゲームの頃は知らなかった。
これもリアルとゲームの差なんだろうか。
「わかった、それじゃあ俺たちと一緒に来い。お前は家族もいない天涯孤独なんだろう?いまお前は一度ここで死んだんだ。暫くは俺たちに付き合え。しばらくしてどうしても嫌なら一人でどこへでも好きな場所に行けばいい」
「そうですよカルアさん。貴方がつけたキズが治るくらいまでは、看病するつもりで一緒に旅をしませんか?」
カルアは尚も大粒の涙を流しながら答えた。
「本当に申し訳ない。暫くの間お世話になります」
まずは旅の準備だ。
カルアが最初にもっていた装備は全て返すことにする。
それ以前にカルアは身体が非常に汚い。
何日も風呂や水浴びをしていないのだろう。
「ティア、カルアの身体を洗ってやれ。オレはここで火でも起こして待っている。カルアも禊のつもりで全身くまなく洗ってもらえ」
「宗一様。覗いたらどうなるか分かっていますよね」
にた~っと笑う顔が怖過ぎる。
「絶対覗かない!だから早くいってこい!」
「それじゃあティアさん、お願いしますね」
照れくさそうに言うカルアにティアが優しく答える。
「ティアでいいですよカルアさん。貴方のほうが年上なんですから」
近くの小川でカルアの身体を洗うと、土汚れや垢がおちて綺麗な褐色肌が現れた。
「カルアさん、男性が好みそうな身体してますね。非常にけしからんです」
ティアは顎に手をやりながらカルアの身体を見る。
「ティアだってそうだと思います。宗一に可愛がってもらってるからそんなに大きくなるのかしら?」
女の会話は男がついていけない内容になることがあるが、今まさにその状態だ。
「毎日ではないですけど、何回もしてもらってます。身体もですけど、心が満たされるんですよね」
「私は経験がないから分からないが、そういうものなのか」
身体を洗い、髪を水で濯いた。朝日に照らされた髪はキラキラと輝いてみえる。
「にしてもカルアさん綺麗ですね。髪はシルバーで肌は褐色、プロポーションは出るとこ出てて女神様みたいです」
「だからティアだってその恐ろしい存在感のものがあるでしょ?」
時間にして一時間くらいだろうか、テントまで戻ってきたティアとカルアを焚き火の前に座らせた。
きっと身体が冷たくなってしまっただろう。
「ここで二人とも暫く温まっていろ。オレが紅茶くらい用意してやる」
それなら私がとティアが動くが、俺が制止させる。
「たまにはオレの入れた紅茶飲んでみたいだろ?」
オレはワザとらしくウィンクする。
ちょっと気持ち悪いが、これも場の雰囲気のためだ。
紅茶をカップに注ぎ二人に渡す。
「カルアの服はとてもじゃないが綺麗とは言えない。ティアのものだと少し小さいかもしれないが、ククリにいったら用意してやる。それまではちょっとだけ我慢だ」
これはティアの提案だった。
汚れた服を綺麗な人に着せるのは申し分ないと。
私の服をいくつか貸すので、ククリについたら服を買って欲しいということも。
優しい性格でよかった。ここでいがみ合うようではどうしようもないからな。
「それじゃあ宗一様の目線もあるので、このタブレット装備一式を貸しますね」
一言一句が心に刺さって痛い。
タブレットはこっちでいうところのパーカーのような見た目の普通の服だ。
下穿きも普通のズボンだしな。
「ありがとう。この服はしっかり洗って返却するので、しばらくお借りする」
このあと三人で朝食をとり、ククリに向かった。
あと半日もしないで到着するだろう。
カルアが一時的に仲間になりました。
このまま旅に同行するかどうかは話の展開次第ということで。
昨日はキーボード打ちながら寝てしまい、この回を投稿する3時間くらい前に起きました。
完全にやってしまった感じです。
今日中にもぅ1話書くことが出来れば投稿しようと思います。
それではまた次回。