人と出会ったバカ
ポケットに入れていた宝石を手の上で転がしながら上機嫌で歩いていると、前方の木々の隙間から僅かながら灯りが見えた。純は今度こそ人に違いないと宝石を握りしめ走り出した。ゴブリンを吹っ飛ばした時のスピードで。
100mはあったであろう木々が生い茂った道を僅か3秒程度で走り、あっという間に灯りがある場所に辿り着いた。
「ひとぉぉおおっ!!人はいねぇえがぁあっ!!!」
「キャッ!なっ?!何よ?!あああんた何者なのよ!って止まりなさいよぉっ!!」
地面を削りながら滑って行く上半身裸の男を追いかけていく少女という何とも言えない一幕であった。
「おぉ!人だ!良かったぁ~。正直迷子になるかと思ってたんだよなぁ!いやー助かった!んで、お前誰だ?」
膝に手を置き少し息の切れている少女は、自慢の長く絹のような髪を掻き揚げ純を睨みつけ言った。
「それはこっちが聞きたいわよ!!迷いの森にいるのに、じっ上半身裸だし、道具も武器も持ってないし!何?あなた死にたいの??それに、人の名前を」
「あーっ!き、きききん、金ぱ、金髪じゃねぇかよ!!」
急に大声で純が叫んだ。憧れの金髪、そうそれも素晴らしく美しい金髪がいたから彼は叫んだ。そう、叫ばずにはいらry
「うるさいわねっ!!金髪が何よ!どうでもいいでしょ!それにあんたの黒髪の方が珍しいわよっ!!」
「お前、あれだろ?染めたよな?お前がやったんだよな?(髪の毛を)」
染めた。その言葉を聞いた瞬間、少女の顔付きが変わりバッと後ろに跳び純と距離を取った。
「…何で。……あんた、知ってるの??」
少女は迷いの森に入る前は窃盗団の一員だった。少女は孤児であり、街でスリとして生計を立てていた。そしてある時、いつものように街に出てスリをした。しかし、スリをした相手が悪かった。相手は孤児達を捕まえては奴隷商人へ売ったり、容姿の良い女は自分の愛玩用として弄び、飽きれば最後は殺して捨てる。孤児が1人や2人死んでいようが居なくなろうがバレる事も無い。そんな最低で危ない奴だと知らなかった少女は、そいつから何とか逃げようと細い路地を走り振り切ろうとしたが追い付かれ、もう駄目だと思った時に、とある力に目覚めた。
それから少女はその力のお陰で窃盗団のボスに気に入られ窃盗団の一員となった。だが、入って数年経った時に自分の窃盗団のボスが昔の自分を襲った奴と同じ事をしているのを知ってしまった。
少女は信頼していたボスに裏切られたという気持ちが強くて、どうしても許せなかった。そして窃盗団の中で最も禁忌とされる行為、仲間殺しをした。ボスを殺したのだ。
その禁忌に手を染めてしまったのだ。それから街でその事が噂になるのは早かった。酒の席で語られ、血の気の多い男達にとってみれば殺したのが少女という事もあり、気になって仕方がなかった。そしていつの間にか、犯罪者内で少女に懸賞金が賭けられ街に居られなくなって比較的近くにあったこの迷いの森に隠れたのだった。少女の力があれば森に住む魔物にも無茶をしない限り負ける事もないし、悪くない隠れ家だったはずなのに。
こいつさえ居なければ…。
「は?知ってるに決まってるだろ!なめんなバーカ。」
「…あんたには死んでもらうしか無いようね。燃えて死ねっ!!『ファイアランス』!」
少女がそう言うと、少女の頭上に3つの炎の玉が出来、さらに2m程の槍のような形になり、それが純に目掛けてかなりの速度で放たれた。