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 そのまま読んでも普通の怪談ですが……実は、意味がわかると怖い話でもあります。

 私の通っている学校には、お約束の怪談話がある。

 夜……と言っても、実際は午前に近い時間になるんだけど、とにかく夜中の4時44分。

 この時間に学校の東階段にある大鏡の前に立つと、鏡の中から化け物が出てきて、その中に引きずり込まれてしまうって話。


 はっきり言って、こんな話なんか全然信じていなかった。

 小学生じゃあるまいし、鏡の中から化け物が出てくるなんて、今どきのホラー映画にだってありゃしない。


 そんなこんなで、私は比較的遅くまで、学校に残っているのも平気だった。

 鏡の噂なんて怖くなかったし、最近の学校はセキュリティ対策もしっかりしている。

 少なくとも、先生が残っている時間帯に、変なことなんておこるはずない。

 そう、信じて疑わなかった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 その日、私は親友の美奈と一緒に、文化祭の準備で学校に残っていた。

 先生たちは早く帰宅するように言うけれど、こっちだって、一年に一度しかないイベントの成功がかかっているんだから。


 私たちの学校では、生徒たちの有志による催し物を行うことが許されている。

 生徒会を通じて学校側に企画書を提出しないと駄目だけど、比較的自由にやらせてもらえる。


 ちなみに、私たちの有志がやる出し物は、ちょっとした喫茶店をイメージした飲食系。

 今週中に、模擬店の店員が着る制服の試作品を完成させておかないといけないので、準備する方も必死だった。


 有志を組んでいる仲間の中で、裁縫の心得があるのは私と美奈しかいない。

 他の人たちは……まあ、家庭科でちょっとかじった程度で、本格的な制服なんて、作るだけの腕はない。

 たった二人だけで作業に熱中していると、いつの間にか窓の外が真っ暗になっていた。


 いけない。

 このまま学校に残っていたら、さすがに叱られてしまう。


 仕方なく、私と美奈は作業を終わらせて、さっさと帰る準備をした。

 そして、足音を忍ばせながら教室を出ると、そのまま昇降口に向かって歩き出した。


 昇降口に一番近いのは、学校の東階段を通る道。

 例の大鏡が置かれた、あの階段だ。


 正直、こんな時間にあの鏡の前を通るのは、さすがに私もちょっと怖かった。

 いくら噂を信じていないとはいえ、人気のない校舎の中を、美奈と二人だけで歩くなんて……。


 気がつくと、私も美奈も息を殺し、例の鏡の前をビクビクしながら通り抜けていた。

 そして、昇降口までやってきたところで、ほっと肩の荷が下りた感じがした。


 なんだ。

 結局、何も起きなかったじゃないか。

 当然と言えば当然なんだけど、ここまで来たら絶対安全だという、変な自身が湧いてきた。

 そして、そんな余裕が心に生まれ、私が靴を履きかえようとしたときだった。


 突然、美奈が「教室に忘れ物をした」と言いだした。

 そんなもの、明日になってから取りに行けばいいと言ったけど、美奈は聞いてくれなかった。


 こんな時間に、またあの鏡の前を通るなんて……。

 そう思ったが、美奈は「大丈夫。だって、今はまだ夜中の4時じゃないから、お化けだって出てこないよ」と言って、私の前から走り去ってしまった。


 友人が目の前からいなくなり、言いようのない不安が襲ってきた。

 確かに美奈の言うとおり、今は夜中の4時44分じゃない。

 変な噂のある鏡の前を通るのは気持ち悪いけど、たとえ噂が本当だったとしても、お化けが出てくるはずがない。


 不安に胸を締め付けられながら、私は美奈の帰りを待った。

 どうか、美奈が無事に戻ってきますように……。

 そう、心の中で祈ったときだった。


「きゃぁぁぁぁっ!!」


 突然、階段の踊り場の辺りから、美奈の悲鳴が聞こえてきた。


 なに?

 なんなの!?

 まさか、噂は本当で、美奈がお化けに襲われた!?


 信じたくない。

 お化けなんか、いるはずない。

 そう思いながらも、気づけば私は階段を、全速力で駆け上がっていた。

 あの悲鳴の原因が、本当に噂のお化けであろうとなかろうと……美奈を見捨てて逃げることなんて、私にはできない。


 2階から3階へ続く階段へ足をのばし、私は例の鏡がある踊り場にたどり着いた。

 そこにあった物を見て、私は言葉を失った。


 鏡の正面には、いるべきはずの友人の姿は見当たらなかった。

 あったのは、美奈が履いていた上履きの片方と、同じく彼女が使っていた携帯電話。

 よく見ると、携帯には血のようなものがついており、ディスプレイから漏れる光だけが、辺りを静かに照らしている。


 呆然と立ち尽くしたまま、私はふと気になって、自分の腕に巻いている時計に目をやった。

 そこには時計の二つの針が、7時15分を少し過ぎたところを指していた。

 さて、この怪談の本当の意味がわかったでしょうか?

 そこまで難しい謎ではないので、ちょっと考えれば楽勝ですよ。

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