商売
室内は薄暗く、空調の音がかすかに響く。
安っぽいカーテンが光を遮り、テーブルの上に置かれた氷入りのグラスが、静かに汗をかいていた。テーブルを囲んで座る三人。
南雲一家若頭・三崎邦親。西成無道の頭・剛田理貴。そして両者を繋いだ神谷才。
三崎は、細く長いストローをゆっくり噛みながら、まるで猫が虫を観察するような目で剛田を見ている。
やがて、その口元がわずかにほころぶ。そしてパケを一つ取り出し机に滑らした。
「これを捌け」
言葉は軽いが、声には一切の余白がなかった。命令。それ以上でも以下でもない。
剛田は、一拍も置かずに返す。
「条件がある」
テーブルの下で、才の膝がわずかに動いた。
「買取はせぇへん。ブツだけ先に渡してくれ。うちの奴が売った分だけ、取り分を回す。……歩合や」
三崎の口角がわずかに上がる。だが、目は笑っていない。
「お前らに、そんな“信用”があるとでも?」
その声音は冷たいというより、空気を削ぐように無機質だった。剛田は口元すら動かさず、ただ淡々と告げた。
「街のガキからしたら――南雲さんより、ウチのほうが信用あるかもしれへんで」
その瞬間、空気がわずかに揺れた。三崎の眉が、ほんの少しだけ動く。だが次の瞬間には、すでに戻っていた。彼はゆっくりとテーブルに指をトン、と置く。
「ふふふ……ええやろう」
剛田はわずかに息を吐くと、次の言葉を重ねる。
「もう一つ、条件がある」
三崎の笑みが消える。今度は、静かに目を細めた。
「取り分は――5:5や。それ以外やったら、この話は流れや」
才が思わず声を上げる。
「お前、ええ加減に……!」
だが三崎はゆっくりと手を上げ、才の言葉を遮った。
一拍。それから、低い声で問う。
「お前、自分が言うとる意味、ほんまにわかっとんか?」
剛田は答えない。ただ、じっと、視線を逸らさずに三崎を見据える。
その目は、猫ではない。野良猫でもない。――ライオンの目だった。
静寂が続く。
やがて三崎はゆっくりと息を吐き、才の方を見て、顎をしゃくる。
才は仕方なくカバンを開け、中からスピンの入った袋を取り出し、剛田の前に置く。
三崎はそれを見ながら、ゆっくりと言った。
「1kg……一週間や。それまでに全部捌いてみぃ。できたら呑んだるわ」
剛田は黙って袋を手に取る。
立ち上がろうとしたそのとき、三崎がふと思い出したように言う。
「……そういや、天王寺スカイレジデンス――あっこから見る西成は格別やろ」
剛田は足を止める。
「変なこと、考えへんことやな?」
静寂。
剛田は何も言わず、袋を持って背を向け、そのまま出て行った。




