表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/113

交渉

十三の喫茶店モダン。

看板も内装も、昭和の空気をそのまま閉じ込めたような場所。客の顔にも、時代の埃が積もっている。ぬるい空気。壊れた冷房。窓の外からは、176号線の重低音。


そこに神谷才が入ってきた。ビーサンにジャージ。格好は抜けている。だが、目が違う。

ずっと相手を計っている目。どこまでも冷えている。


「神谷才や。南雲一家若頭、三崎の息子や」


その一言で、店の空気が締まった。

“南雲”の名を出すのは、ただの挨拶ではないことは明白。縄張りの主張。


先に傷だらけのソファに座っていた剛田理貴は鼻で笑う。


「おいおい、いきなりやな。こっちは素人やで。俺はヤクザと遊ぶ趣味なんてあらへんぞ」


才も一歩も引かない。無表情で言う。


「そういう御託は無しにしようや。お前らのやっとることは、大体わかっとる。西成で派手にやっとったら俺らの耳に全部入るんやわ」


剛田は表情変えず浅く呼吸している。


「南雲の顔に泥塗るような商売してへんで、ウチは」


「…今日は、その”商売”の話をしにきたんや」


剛田の目が細くなる。


「わざわざ十三まで来たんは俺の方やぞ?」


才の口元が微かに吊り上がった。


「殺人犯に無茶いいなや」


沈黙が流れる


おもむろに才は鞄から封筒を出した。中にはチャック袋。白い粉。細かい粒。


「 “スピン”て呼んどる。最近うちで回してるブツや。流れは早い、利もええ。ただし、足場が要る」


才の目が光る。


「……単刀直入に言うわ。お前らのネットワークが欲しい」


剛田は袋を一瞥し、指で押し戻す。


「ヤクザのブツに手を出すメリットが、どこにあんねん? そんな時代遅れの商売、あんたらが好きにやれや。俺らはあんたらの商売を邪魔するつもりは一切あらへん」


才は、次のカードを切ってくる。


「うちは腐っても西成で百年、独立独歩でやってきた老舗や。ごつい看板がある。地元のこれ、全部南雲経由で動かせるで。ちゃんと“合法”に見える形でな」


名刺を端から並べていく。そこには有名企業、建設系の社団法人。地元議員の名前。

剛田の目に、覚えのある名も複数あった。


「資金洗浄も捗るで?」


(なんでそれを…)


剛田の反応を見て才は口角を緩ませる。


「稼いだら洗う、この業界の鉄則やないか」


剛田は黙ってタバコを取り出す。火はつけず、咥えただけ。


「ほな、お前が南雲の後継ってわけか」


「そうは言うてへん。俺は、“使える組織”を自分で選びたいだけや。筋も通す。ただし、“誰に通すか”は、こっちの裁量や」


――今、無道が悩んでるのは資金の出口。それが南雲にはある。使いようによっては、ブランドにもなる。


剛田が言う。


「ヤクザは、正直信用できへん。けど――そうも言うてられへんのも事実や」


才は静かに頷いた。そしてうっすら笑う。


「それでええ。今日来たのは、顔見せと下話や。正式な話は、親父に通した後や」


十三の喫茶店。ぬるい空気と、金と暴力の臭いが染みついた場所。テーブルの向こうの男――神谷才は、確かに“使える目”をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ