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怪物

平成二十三年――暴力団排除条例が全国に施行された年。


それは「暴力団が暴力団であること自体を罰せられる」時代の始まりだった。

 

名前を出せば契約が切られる。仕事は干され、銀行口座は止まり、アパートも借りられない。組に属しているという“事実”だけで、人生そのものが詰まされる。かつて肩で風を切って街を歩いていた暴力団は存在を否定され、名刺ひとつでアウトになった。


当然、食えない。食えなければ若い衆は辞めていく。辞めたところで社会復帰は不可能。誰も拾ってくれない。かつて“背中で食わせた”はずの親分たちも、今や手をこまねいているだけだった。

 

法を犯すことを怖がり、街から“怖い大人”が、文字通り消えた。


――だが、暴力は消えていなかった。


トラブルは続く。クスリ、借金、風俗の取り合い。街に暴力はまだ必要とされていた。誰がそれを担うのか。


その空白に、突如として現れたのが剛田理貴だった。


剛田が最初に始めたのは地下格闘技イベント『STRAY DOGS』。

 

表の看板は「地域振興型・格闘技大会」――だが実態は違った。ボロ倉庫、仮設リング、照明すら不安定な即席の“興行”。観客は大半が不良、賭場帰り、ヤクザ者、地元の若者。

 

そのリングに、剛田自身が立った。噂はすぐ広まった。プロでもなく、元格闘家でもない。ただの“街のヤバい奴”が、どこまでも無慈悲に相手を潰す。

 

骨が折れる音、歯が飛ぶ血飛沫――

 

剛田は知っていた。力に人は惹かれる。そして恐怖は口コミで伝わる。

 “見たヤツが語る剛田”の方が、よほどリアルで、説得力があった。


「ほんまにヤバい奴がおる」


「ヤクザとも平気で揉めるような奴らしい」


語られた“怖さ”が勝手に肥大して、剛田を“怪物”に変えていった。そしてそれこそが、彼の狙いだった。

地下格闘技は、ただの見世物じゃない。剛田にとって、それは街に向けた「自己紹介」だった。


名刺も肩書きもいらない。自分の名前と、顔と、やってきたこと。その“残像”が街に根を張っていく。


やがて人が集まり始めた。元族、元ヤクザ、チンピラ、ニート、フリーター、無職の若者たち。人は人に引き寄せられる。そして剛田は、その土壌の上に“金になる仕事”を植えていった。

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