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残滓

あの夜から、才さんは姿を消した。

 

それと同時に――“闇天狗”は終わったんやと思う。正式に解散したとか、そんな話は聞いてへん。でも、才さんと猛さんがおらんようなった時点で、もう誰も引っぱられへんかった。あの二人で保っとった組織やったんや。


俺が入ったんは、最後の方。ガキみたいなもんで、まだ何も知らんかった。

 “闇天狗”って名前にずっと憧れてた。闇天狗は俺ら不良にとって街のスターやった。あの黒の特攻服。 全員パンチかリーゼントで決めたビッとした姿。真夜中に駆けるCBX、バブ、XJR、GSXなんかの旧車達。トリコロールやレインボーのラメ塗装が眩しかった。高校中退してすぐ、居ても立ってもいられんくなって怖いもん無しで飛び込んだ。


そんな憧れの闇天狗の中でも才さんの存在は際立ってた。長い銀髪。自由の象徴のように感じた。最初に声かけてくれたのも才さんやった。


「友介、これやるわ」って、首に巻いてくれた黒い革のチョーカー。どこのやつかもわからんけど、才さんがくれたもの。

「お守りや。これつけとったら、お前もこっち側やで」って笑ってた。俺はそれが嬉しくて、今でも肌身離さず、このチョーカーだけは外したことがない。


「友介、誰かに必要とされるってのは、案外ええもんやで」って、あの笑いながら言うた言葉、今でも忘れられへん。

 

俺はあの人に憧れた。本気で“ついていきたい”って思った。見返りとか、見栄とか、そんなもんやなくて、なんか……初めて“この人の力になりたい”って思えたんや。

それまで俺は、どこにいても“居場所”って感じがせんかった。家にも、学校にも。

でも、才さんだけが、名前も、存在も、初めてちゃんと見てくれたような気がしたんや。

 

……でも、それも全部、過去になってもうた。

今、かつての溜まり場には誰もおらん。シャッターには「関係者以外立入禁止」って紙が貼られてて、その横には赤のスプレーで殴り書きされた「人殺し」の文字。雨に濡れて歪んだ字が、なんか、やたら胸に刺さった。


代わりに、この街には見たこともない連中が増えた。闇天狗がおらんようになった空白を埋めるみたいに……。


テレビも新聞も、毎日のように“西成の暴走族抗争”を取り上げて、”キレる十代”とか、”学校教育の終焉”とかわけわからん話を大人がしてる。

そんなん見て、みんな関わりたくないって、かつての仲間達も黙るようになった。才さんの名前を出すのも、今じゃタブーや。

でも俺は、どこかであの人をずっと信じたかった。才さんは、そんな人ちゃうって。


“絆”って言葉を、あの人はよくつこうてた。「俺ら仲間やろが」って。


俺はその言葉に救われた。才さんの背中に、自分の生きててええ理由を重ねてた。せやから今、“あの人がほんまに人殺して逃げたんか?”って、時々思う。もしかしたら全部、俺らのために背負って消えたんちゃうか―― って。そう思いたいだけなんかもしれんけどな。

 

あの夜以降、才さんからの連絡は一切ない。噂では、生きとるとか、どこかで潜伏してるとか聞くけど、真実は誰にもわからへん。今さら何を言うても、世間からしたら“元暴走族”の一人や。名前も顔も知られとらん。せやけど俺にとって、闇天狗はただの集まりやなかった。才さんが作ったあの空間は、俺にとって初めての“居場所”やったんや。

信じとったもんが、ほんまに終わってしもたんか。それとも、まだどっかで続いてるんか。……それを確かめたい。


たとえ一人でも、俺はあの夜のことを忘れへん。俺は、あの夜の匂いや、あの声を、完全には捨てきれん。闇天狗で過ごした時間が、全部ウソやったとは、まだ――言いたくないんや。

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