結成
西成の夜。
月は低く、遠くに望む建設中のあべのハルカスと怪しく交わっていた。街灯の光も霞む薄闇の中。廃倉庫の屋上に、六十人を超える男たちが集まっていた。
京志一家の面々。そして、猛の遺志を継いだ闇天狗の精鋭たち。その中には、小野原や近藤の姿もあった。――鉄と汗と、剥き出しの喧嘩の匂い。
旧遊撃隊の数人は、輪に加わることはせず壁際で腕を組んでいる。彼らはただ、冷え切った目で京志の背中を見つめ、指の関節をパキリと鳴らす。
その視線を、間柴が音もなく横に立ち、氷のような眼光で遮った。
男たちが小さく舌打ちし、顔を背ける。
弾む空気と、淀んだ影。
その只中を、静かに歩く京志。その横には、竜。そして春也。
小野原が前に出る。鋭い目を細め、まっすぐ京志を見据える。
「あん時は世話になったな」
「別に…」
小野原はふっと笑って、竜に目を向けた。
「俺らは、あんたの兄貴についてきた。あの人は、俺らにとって“ 道標”やった」
「猛さんが、お前を認めたんや。せやから俺らはお前についていく」
竜は、目を逸らさずに頷いた。
「でもな――、少しでも、後藤猛の名を汚すような真似してみぃ。問答無用で潰しにいくで」
その横で、春也が鼻を鳴らした。
「なんや、ずいぶん偉そうやなぁ。勝手になんかくっちゃべっとるけど、誰が入ってくれ言うたんや? ……そもそも京志一家に金髪は二人もいらんのじゃ」
小野原は目を血ばしらせて春也に吐き捨てる
「ふん。お前は別や。キャラ被せてきよって、俺に憧れんのも大概にせぇ」
春也も無気になって続ける。
「なんやと。その顔面でよう俺とキャラかぶっとる言えたな」
小野原が春也に詰め寄る。
「あぁ? 似ても似つかん顔面にしたろか、ガキィ」
ピリッ、と空気が張りつめる。春也と小野原、火花のような視線を交わし合う。
呼応するかのように背後の遊撃隊の漢たちと一家の連中が同時に腰を浮かせた。 拳を握り直す音が、夜の静寂に響く。
その時、後ろから――「ぷっ」と、誰かが吹き出した。
江藤と一平だった。
「おいおい、やめぇや。ケンカ始めんの早すぎるわ!」
「間とって俺に憧れて赤髪にせぇよ。それか江藤のハゲがええか?」
「ハゲと坊主一緒にすなよ!」
場の空気が少しだけ緩む。笑い声が、波のように広がっていく。春也も肩透かしされたようにため息をついた。
江藤が一歩前に出て、手を挙げる。
「ほな、ええか? 一つ、提案や」
「俺ら、今や六十人超え。名前も“京志一家”じゃ、ちとスケール合わんやろ? ……そろそろ、新しい名前がいるんちゃうか?」
ざわつく面々。「せやな」と頷く者たち。
そのとき、竜がゆっくり前に出た。
「“京”って字は残したい」
目はまっすぐ京志を見ている。
「この街で、誰もがバラバラで、ただ暴れとっただけの俺らが――お前に出会って、変わった」
竜の声に、嘘はない。重みと、過去の痛みと、それを超えてきた確信がある。
「京志。お前が、この街を……そして俺らを、変えたんや。せやから、“京”は入れたい。いや、入れなあかん」
その言葉に、屋上の空気が静まり返る。京志は、少し目を伏せたまま黙っていたが――やがて、ゆっくりと顔を上げ、ぼそりと呟いた。
「……なら、もう逃げられへんな」
竜の目が細められた。春也がニヤッと笑う。続けて江藤が口を開いた。
「ほんで、俺ら全員、バラバラやったけど――なんやかんやで、京志の周りに集まってもうた」
「強さに惹かれてか、目つきに惚れたんか、それは知らん。せやから――
**“京絆連合”(けいはんれんごう)**で、どうや?」
一瞬の静寂。
その中で、間柴が力強く頷く。
「ええと思う」
竜が、京志を見て言う。
「……オレも、それがええ」
小野原が、肩をすくめるように苦笑した。
「悪うない」
京志がゆっくりと頷きながら言う。
「俺の“京”と……“俺ら”の“絆”――か」
拍手はなかった。けど、誰もが小さく笑っていた。その笑みは、“家族”を見つけた不良たちの証やった。
こうして、西成の地に――京絆連合 誕生




