墓前
墓の前。竜がひとり、背を向けて立っている。その背に、静かに近づく大きな影。
「やっぱ、ここにおったんやな」
竜は振り返らず、ポケットに手を突っ込んだまま、うなずく。間柴と二人、並んで墓を見つめる。
沈黙。風が吹き抜ける。
カラスの鳴き声が遠くからかすかに聞こえる。
「なんやったんやろな、あいつ」
竜が少し笑ったような吐息を漏らす。
「怖かった。ずっと。……夢ん中で殺したこともある。何回もな」
言葉を切りながら、ぽつぽつと絞り出す。
「 “なんでお前が兄貴やねん”って……“なんで血、切れへんねん”って。ずっと思ってた」
風に揺れる草の音。
「せやけど……
仲間ができてやっと……やっと血よりも、大事なもん見つけた思てたのに……」
少しうつむき、歯を食いしばる。
「許されへん。今でも。なんも。でも……でも……
なんで……なんでこんなに、涙……出るんやろな……っ」
声が震え、涙がこぼれ落ちる。顔を背けて、しゃがみ込む。肩が震えている。
間柴は黙って、ゆっくりしゃがむ。
「俺もな、ずっと思ってた。なんであの人、お前にあんなことばっかりすんねやろって」
「……」
「でもな。あの人、ほんまは……自分が一番、弱いって、知ってたんちゃうか」
少し間を空けて、続ける。
「せやから、強さばっかり求めた。 でも、自分のことは変えられへんかった。
せやから……お前を、押さえつけるしかなかったんかもな」
「……それで守っとった、言うんか」
「守る、いうより……願ってたんちゃうか。“せめてこいつだけは、俺と違うもんになってくれ”って」
竜は黙って嗚咽をこらえる。そのまま、声を押し殺して泣き崩れる。
「もう……わからへん……なんでや……俺、あいつのことなんか……」
間柴は肩にそっと手を置く。何も言わず、ただそこにいる。
沈黙と風の音だけが、二人を包む。




