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視線

後藤猛の死から、二ヵ月が経った。

西成のガード下、暖簾が揺れるどて焼き屋。カウンターは新調され、艶が出ている。電球色の証明が柔らかく空間を包む。小さな観葉植物が、窓辺に置かれていて、生活感と洗練が共存していた。


鉄鍋は、変わらず湯気を立てて煮え続ける。串に刺されたどて焼きは、以前よりも丁寧に盛られ、光沢のある煮汁に黄金色が映えている。ただ、それでも壁の隅に積まれた段ボールや古い工具が、この街の泥臭さを忘れさせない。


そんな店内は重苦しい沈黙に包まれていた。誰もが口数少なく、ただ串を口に運ぶだけ、無理やり作った笑い声が時折上がるが、すぐに重い沈黙に吸い込まれていく。兄を失った竜は、ただ黙って串を見つめている、その沈黙に、誰も触れられなかった。


殺人容疑、あるいは凶器準備集合罪での逮捕が濃厚かと思われた。だが、彼は不起訴処分となり、家庭裁判所での保護観察処分にとどまった。

決定打となったのは、情けや涙ではない。冷徹な**「科学捜査」**の結果だった。


現場に残された拳銃。そこから検出された指紋は「神谷才」のものと一致した。

さらに、竜の両手からは硝煙反応が出なかった。

目撃証言とも一致し、「竜は撃っていない」ことが物理的に証明されたのだ。

加えて、死亡した後藤猛が最期に弟を庇ったという事実が、彼の罪を軽くした。


そんな重い空気の中、カウンターに立つ江藤の姉が、ふいに口を開いた。


「……あんたらな、すぐに喧嘩や抗争やってなるけども、他に解決の仕方ないんか?」


店の中の空気が、ふっと止まった。彼女の視線は、竜の沈んだ背中に向けられていた。


「この街で暴れとったら、西成で真面目にやってるもんが浮かばれんわ。缶拾ってる婆さんもおるし、現場で汗かいてる鳶もおる。サラリーマンもおる。子どもを必死で育てとる家族もぎょうさんおんねん」


静かな、しかし、全員の胸に貫くような声だった。


「せやのに、あんたらが火ぃつけたら〟やっぱり西成やな“って外の人間にまとめてレッテル貼られる。誰かが死んだら、〝だから西成は〟って言われるんや。一生懸命生きとる人が、一番迷惑すんねん。……わかるか?」

 

彼女の目は強く光っていたが、声は震えていた。その言葉は、抽象的な説教ではなかった。一つの命が消えたことを、明確に指し示していた。江藤が気まずそうに頭をかいた。


「……わかってる、姉ちゃん」


春也が小声で「すんません」とつぶやき、間柴は黙ってどて焼きを噛み締めた。


竜は顔を上げられず、手元の串をただ握りしめていた。帰り道、誰も口を開かなかった。京志の目が、窓辺の小さな靴と揺れるカーテンに留まった。ふと、拳が固くなった。

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