表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血環 ー大阪・西成、裏社会と少年たちー  作者: 京田 学
第1部 一章 西成第一中学
8/84

忠告

少し歩いたとこにある古びた駄菓子屋の前。春也がラムネの瓶をコツンと京志の瓶に当てた。駄菓子屋のおばちゃんが、春也の傷を見るなり半ば無理やり渡してきたものだ。


「ま、今日はありがとな。喧嘩だけやない。心ん中も男前やったわ」


京志はラムネを飲みながら、どこかぶっきらぼうに返す。


「礼は言わんのとちゃうんか?」


春也は自分のラムネを見つめながら、少しだけ笑った。


ラムネを飲み終える頃、春也の横顔には、さっきまでの熱気が消え、冷たい現実感だけが張り付いている。


「あいつら、俺一人やったらただの『喧嘩』で済ませたはずや。けど……」


京志は何も答えず、自分の瓶のビー玉を弄んでいる。

春也は、じっと京志を見て言った。


「間柴には会うたんやろ? 間柴健ましば けん。あのデカい合理主義者や。あいつはまだええ。利害が合えば手は出してこん。……問題は、その先にいる奴や」


春也は空になった瓶を、絞り出すように強く握った。


少しの沈黙の後、春也は覚悟を決めたように低く呟いた。


「……後藤竜」


空気が変わった。京志は、「ニトロ」という通称を思い出す。


「 “あいつに関わるな”ってのが、一中の暗黙のルールになっとる。“ニトログリセリン”何が引き金になるかわからん……。学校であいつと話せんのは俺と間柴ぐらいなもんや」

 

京志は瓶を持ったまま、じっと春也の目を見ていた。


「殺人以外全部やっとるって噂されとる。施設育ちで、指導員に包丁突きつけたこともあるらしい。事実かは分からんけど……」

 

春也がゆっくり俯いた。


「あいつならって思ってまう……。ほんまもんの“ 狂犬”や」

 

京志は少しだけ目を細めた。


「俺に関係あるんか?」


「さあな。でも、学校には月一で集金に来よる」


春也の唾を飲む音が聞こえる。


「それに竜は“新入り”が好きなんや。とくに“目ぇが据わっとるやつ”は、な」

 

その言葉の後、沈黙が支配した。春也は立ち上がり、瓶をゴミ箱に放り投げた。


「気ぃつけや、京志。ここでは“目立つ”ことは、生きることとイコールやない」


京志は瓶を片手に、遠くの夕日を見つめたまま、何も言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ