忠告
少し歩いたとこにある古びた駄菓子屋の前。春也がラムネの瓶をコツンと京志の瓶に当てた。駄菓子屋のおばちゃんが、春也の傷を見るなり半ば無理やり渡してきたものだ。
「ま、今日はありがとな。喧嘩だけやない。心ん中も男前やったわ」
京志はラムネを飲みながら、どこかぶっきらぼうに返す。
「礼は言わんのとちゃうんか?」
春也は自分のラムネを見つめながら、少しだけ笑った。
ラムネを飲み終える頃、春也の横顔には、さっきまでの熱気が消え、冷たい現実感だけが張り付いている。
「あいつら、俺一人やったらただの『喧嘩』で済ませたはずや。けど……」
京志は何も答えず、自分の瓶のビー玉を弄んでいる。
春也は、じっと京志を見て言った。
「間柴には会うたんやろ? 間柴健。あのデカい合理主義者や。あいつはまだええ。利害が合えば手は出してこん。……問題は、その先にいる奴や」
春也は空になった瓶を、絞り出すように強く握った。
少しの沈黙の後、春也は覚悟を決めたように低く呟いた。
「……後藤竜」
空気が変わった。京志は、「ニトロ」という通称を思い出す。
「 “あいつに関わるな”ってのが、一中の暗黙のルールになっとる。“ニトログリセリン”何が引き金になるかわからん……。学校であいつと話せんのは俺と間柴ぐらいなもんや」
京志は瓶を持ったまま、じっと春也の目を見ていた。
「殺人以外全部やっとるって噂されとる。施設育ちで、指導員に包丁突きつけたこともあるらしい。事実かは分からんけど……」
春也がゆっくり俯いた。
「あいつならって思ってまう……。ほんまもんの“ 狂犬”や」
京志は少しだけ目を細めた。
「俺に関係あるんか?」
「さあな。でも、学校には月一で集金に来よる」
春也の唾を飲む音が聞こえる。
「それに竜は“新入り”が好きなんや。とくに“目ぇが据わっとるやつ”は、な」
その言葉の後、沈黙が支配した。春也は立ち上がり、瓶をゴミ箱に放り投げた。
「気ぃつけや、京志。ここでは“目立つ”ことは、生きることとイコールやない」
京志は瓶を片手に、遠くの夕日を見つめたまま、何も言わなかった。




