暴力
少し離れた場所。闇天狗の重鎮――後藤猛。
京志一家の四人が、左右と正面を囲むようにして距離を詰めていた。だが、猛は一歩も引かず、無言でそこに立っている。
「いけ……!」
誰かの声が合図になる。一人が真正面から飛び込んだ。狙いは鳩尾――全体重を乗せた拳。だが、猛は、わずかに上体を引き、その拳の軌道に手のひらを被せるように遮った。見えなかった。
次の瞬間、逆の手が振り抜かれていた。
「……ッ!」
正面の男の顔面に、拳が突き刺さる。ぐしゃり、という肉の軋む音。
そのまま後頭部から地面に叩き伏せられる。
残る三人が一瞬、足を止めた。
猛が、無言で顔を向ける。感情のない目。動物でも人間でもない。一人が叫びながら背後から駆け寄った。バットを構え、渾身の力で後頭部めがけて振り下ろす――!
無機質な金属音が鳴り響く。
猛は左手を素早く振り上げ、内からとりだした警棒を伸ばしそれを受け止めていた。
隙は、0.2秒。その警棒が、一気に相手の脇腹をえぐるように打ち込まれる。
「ッが――!」
前かがみになった顔面を、容赦なく蹴り上げる。
身体が地面に叩きつけられ、砂埃が舞う。そこへ、間髪入れず膝が落ちる。猛の体重すべてを乗せた打撃が、倒れた男の胸板を潰した。
「ゴフッ……」
痙攣。白目。完全に気絶。
猛は、ゆっくりと立ち上がり、一人一人着実に仕留めていく。
そして、また何も言わず、残る二人に向かって歩き出す。後退する足音。足はもつれ、声も出ない。
――これが、“暴力”。




