表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/88

相違

――施設でのあの日々。

お前は知らんやろ。俺がいつもお前たち兄弟を見ていたこと――

竜はいつも反発していた。大人たちの理不尽に、真っ向から牙を剥いた。殴られ、蹴られ、血を流しながら、それでも引かへんかった。


「なんでや……」


才は、あの頃の自分を思い出す。何もできなかった。大人たちの暴力に震えて、抗うことも、あわせることもできず、ただ隅で唇を噛むことしかできなかった。なのに竜は、いつも才の前に立っていた。わざと怒らせるかのような態度をとり、才に手が伸びる前に、自分が傷を負っていた。


“なんなんや、あの強さは”


才は目を閉じる。

ある夜こんなことがあった。

才は便所に行こうとしていた。廊下の奥で、小さな咳が聞こえた。覗くと、角の影に、職員に胸ぐらを掴まれている子がいた。

怯えた声。


「ちがう、俺ちゃう……」


その子は、才よりも小さな子だった。濡れた雑巾が床に落ちていた。何かを溢しただけ。それだけのこと。

才はその場から一歩も動けなかった。声を出すこともできなかった。

――と、その瞬間。


「待って」


鋭い声が響く。職員が顔を上げると、竜が立っていた。懐中電灯の灯りに浮かぶ表情は無だった。


「そいつ、やってへん。やったん俺や」


静かに、はっきりと、竜は言った。

職員が近づき、無言のまま竜の顔を張った。音がしないほどの平手。竜は一切顔を背けなかった。


「次はないからな」


それだけ言って、職員は去った。

その後、竜は壁にもたれて、しゃがみこんでいた。

才は近づけなかった。声もかけられなかった。

ただ――背中を見ていた。

“なぜ、あんなにも静かに人をかばえるんや” あれはヒーローやない。正義でもない。ただ、誰かを痛めつける音 を**“耳が拒んだ”**それだけやきっと。


……そして、あの日が来た。地獄のような施設に、南雲一家の三崎が現れた。何もかもが腐っていた場所から、自分を引っ張り上げてくれた“血”。

才にとって、血こそが救いだった。

だからこそ竜が「血」に選ばれなかったことに安堵し、そして同時に「絆」を選ぼうとしていることが許せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ