意思
「……最初っから、闇天狗を壊す気でおったんか」
才は鼻で笑う。
「そんな物騒なこと言うてへん。……“使えるもんだけ拾う”。……そう言うたほうが正確やな」
才は一歩、竜の懐に踏み込む。
「せやから、見せてくれや。お前が“猛の弟”としてじゃなく、“ 後藤竜”として、何を成せるんかを」
竜はわずかに顔を伏せた。
その目が影に沈み、何かが――幼い頃の記憶すら――よぎる。
兄との施設での日々。踏みにじられながらも、恐れつつも、背中を追い続けた絶対的な憧れ。兄に抗わなければ、兄を超えなければ拭いされない呪縛。
その“呪い”の正体が、今、才の言葉によって暴かれた。
(後藤竜として……)
やがて――
「……俺が”俺”を選んだとき、どこまで責任持ってくれんねん、お前」
その問いに、才はまるで当然のように答えた。
「最後まで」
竜の口元が、皮肉のように笑った。
「……ホンマに、気色悪ぃ男やな。お前は」
竜の口元が、皮肉のように笑った。
「相変わらず、気色悪い言うてんねや!」
「なんやて?」
才の思考が一瞬、停止した。
計算外だった。この状況、このタイミング。竜は兄への憎悪と、組織への野心に染まり、自分の「手」を取るはずだった。それが最も合理的で、最も「この街」らしい選択のはずだった。
次の瞬間、才の視界にノイズが走った。
竜の背後に、一人の男が歩み寄る。加賀谷京志だ。
その男が近づいてくるだけで、周囲の闇天狗の兵隊たちが放っていた殺気が、霧散していくのを感じた。
京志が、竜の背中に立つ。何も言わず、ただその場に“いる”。
竜はゆっくりと振り返らずに、口を開いた。
「……俺は京志一家や」
声には、迷いはなかった。
もう、“猛の弟”ではない。後藤竜として立ち、京志という“仲間”とともに、進むべき道を選んだ――その証だった。
竜の目が記憶の中に眠ってる、”あの地獄”を引きずり出す。顔を変えても、銀髪にしても変えられぬ過去。




