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過去

***


奈良沢翔太。幼馴染やった。


ガキの頃から、ずっと一緒やった。お互い片親で、帰りの遅い親を待つ寂しさを、二人で埋め合ってた。家族みたいなもんやった。

闇天狗に入ったのも、同じ時期や。あったかい家族に、心のどこかで憧れてた。そんなとき――あの人、御影アキラに引き寄せられた。

アキラさんは、当時から闇天狗の頭やった。圧倒的なカリスマと面倒見の良さで、チームの内外を問わず、街の顔になってた。


「はぐれもんかて、一人は嫌やねん」


――よう言うてたわ。あの人の下におったら、本気で笑えた。

けど、崩壊は唐突やった。 冨田って男が入ってきた。西成三中出身。親はヤクザ。親の名前を振りかざして中学では好き勝手してたって噂や。そいつが、萩ノ茶屋、山王あたりを拠点とするチーム”西成無道”のメンバーの妹に――暴行したらしい。

話はすぐアキラさんの耳に入った。けど冨田は罪を認めへんかった。それどころか、自分を守るためにアキラさんに嘘を吹き込みよった。それを信じてもうたんや、アキラさんは。

話をつける言うて、無道のメンバーのところに乗り込んだ。けど、交渉は決裂。次第に抗争に発展していった。

そして、何の罪もない翔太が――

夜中、後頭部を金属バットでどつかれて……そのまま……。


葬式の時、アキラさんは泣きながら言うた。


「それでも、俺は仲間を信じてる」


 ――ふざけんな。


何が信じるや。何が“家族”や。

仲間守りたかったんやろ? 絆が欲しかったんやろ? やったら――翔太を、守れや。

 

結局アキラさんは、殺人事件にまで発展した抗争を扇動したとして少年院に送致された。


俺は、あのとき決めた。アキラさんじゃあかん。変えられるのは、猛さんだけや。

仲間や家族を守ろう思ったら組織を統制せなあかん。なめられたらこの街ではやっていかれへん。

次第に同じ考えを持つ奴らが一人、二人と増えていった。俺らは後藤猛と一緒に、闇天狗を一から作り直す。もう誰も、翔太みたいに死なせへん。

 そのために――

 ***


現実に戻った堂島の目には、うっすら涙がにじんでいた。

静寂の中、足音がかすかに響いた。


ズッ、ズッ、ズッ……と、引きずるような音。夜風にまぎれて、それでも耳に刺さる。


「……っ、はぁ……はぁ……」


近藤だった。顔は土と涙と血でぐしゃぐしゃ。左足は引きずり、上体は傾き、まともに立っているのがやっと。それでも――必死に、前に進んでくる。


「……堂島さん……っ……!」


その姿を見て、場の空気がわずかに変わる。

近藤は堂島の前で膝をつき、顔を地面につけるように深く頭を下げた。


「すんませんっしたあああああああ!!」


怒号にも似たその声に、誰もが一瞬、息を呑んだ。


「俺っ……俺、嘘ついてました……! 全部、小野原さんのせいにして……俺……自分が、責任問われるのが怖くて……!」


嗚咽が混じる。声が震え、言葉が切れる。


「仲間を見捨てて……小野原さんを……!」


涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、近藤は続ける。


「小野原さんをやったのは……あいつ、小野原さんがやり方に文句つけたのを……許さなかった……」


堂島は無言のまま、彼を見下ろしていた。


「俺は……知ってました……知ってて……言えませんでした……! 猛さんも才も怖かったからです……でも、それ以上に……俺は今……自分が嫌で嫌で仕方ないんです……!」


声を枯らす。


「俺は……! 俺は……!」


涙を流しながら、土を殴る。震える拳で何度も何度も。


「小野原さんは……俺らを……俺らのこと守ろうと……、その小野原さんを……俺は……!」


声が詰まり、嗚咽だけが残った。しばしの沈黙――。

堂島が、ぽつりと口を開いた。


「……そうか」


その言葉は、あまりにも静かだった。まるで、遠くの雨音を聞くように。間柴が、隣で静かに目を伏せる。すべてを聞いていた。堂島の――その表情には驚きも怒りもない。むしろ、どこか納得したような眼差しだった。


「やっぱり、才が……」


堂島は続けた。


「近藤……あいつは…小野原はもう…もう多分戻ってこん」


近藤の顔を見ずに、空を見上げるように言う。近藤は、声にならない声で、ただ泣いていた。堂島は、背を向けた。その背中には、悲しみではなく――覚悟が宿っていた。

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