表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/88

堂島

堂島が叫ぶように、吠えた。


「うおおおおおおッ!!」


それは、言葉じゃなかった。ただの怒号でもなかった。あふれ出す――迷い、怒り、悔しさ、痛み、そして誓い。魂の叫び。そのまま、拳を繰り出す。考えるより先に体が動く。いや、――突き動かされてる。


ラッシュ。ラッシュ。ラッシュ。


さっきまでの静の攻撃とはまるで違う。打撃というには荒すぎる。けれど、拳一発一発に、宿っていた。“お前らにはわからん”と――“これは俺の戦いや”と――訴えるように。


「うおっ……!」


間柴は、踏みとどまる。退かない。むしろ一歩、前に出る。堂島の拳が頬をかすめ、顎を掠め、額をかすめる。それでも、嵐を耐える。拳の雨が間柴を叩く。

それでも間柴は目を閉じない。目の奥で、堂島を見ていた。

堂島の拳には殺気がある。けれどその奥にあるのは、苛立ち、焦燥、不安――そして、傷。たった一人で背負ってきた何かが、いま崩れかけている。過去と信念の板挟みの中で、堂島は、必死に拳を振るっていた。

それを見た間柴の目が、決まった。


「……終わりや」


静かに、しかし確かな意志を乗せて呟いた。


「うおおおおおッ!!」


間柴が地を蹴った。鋼のように鍛え上げられた下半身から、爆発的な推進力。目にも止まらぬスピードで、一直線に突っ込む。堂島の腹に、渾身のタックル。


「ッぐうッ――!!」


空気が潰れるような音と共に、堂島の体が後退する。まるで巨木を根元からなぎ倒すような破壊力。そして、そのまま――跳んだ。間柴の体が、反動を殺さず、空中へと跳ね上がる。沈み込んだ足腰をそのままばねに変え、全身をしならせ――


「……ッ!!」


空を裂くようなドロップキック。両足をそろえて突き出し、一直線に堂島の胸板を打ち抜く。


「がはっ――!!」


堂島のガードごと砕けた。 衝撃で浮いた堂島の体は、後方に向かって弾き飛ばされ、空中で一回転しながら地面に落ち、砂煙とともに転がった。

地面に叩きつけられた堂島は、うつ伏せのまま、肩で息をする。胸を押さえて咳き込む。立ち上がれない。

拳じゃない。言葉でもない。間柴の全身が突き刺さっていた。


(なんや……こいつ……なんでこんなガキに……)


そのとき、鼻腔を突いた砂の匂いが、記憶を強制的に引き戻した。

夜の工事現場。盗んだ単車をバラし、ガソリンの臭いにまみれていた、あの頃の湿った土の匂い。


(……待てや、翔太……)


這いつくばった堂島の視界の端に、泥だらけの手で笑う小さな影が揺れた。


 ――翔太。


笑っていた。何でもないように、あの日のように。


(翔太……俺……)


その名を呼びかけるように、手が伸びかけた。けれどその手は、地面を握りしめることしかできなかった。

対する間柴は、静かに肩で息をしている。蹴りの反動でふらつきながらも、まっすぐ立っている。その目には、もう“敵”を見る色はなかった。

ただ、一人の男として――堂島の“背負ってきたもの”を、見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ