堂島
堂島が叫ぶように、吠えた。
「うおおおおおおッ!!」
それは、言葉じゃなかった。ただの怒号でもなかった。あふれ出す――迷い、怒り、悔しさ、痛み、そして誓い。魂の叫び。そのまま、拳を繰り出す。考えるより先に体が動く。いや、――突き動かされてる。
ラッシュ。ラッシュ。ラッシュ。
さっきまでの静の攻撃とはまるで違う。打撃というには荒すぎる。けれど、拳一発一発に、宿っていた。“お前らにはわからん”と――“これは俺の戦いや”と――訴えるように。
「うおっ……!」
間柴は、踏みとどまる。退かない。むしろ一歩、前に出る。堂島の拳が頬をかすめ、顎を掠め、額をかすめる。それでも、嵐を耐える。拳の雨が間柴を叩く。
それでも間柴は目を閉じない。目の奥で、堂島を見ていた。
堂島の拳には殺気がある。けれどその奥にあるのは、苛立ち、焦燥、不安――そして、傷。たった一人で背負ってきた何かが、いま崩れかけている。過去と信念の板挟みの中で、堂島は、必死に拳を振るっていた。
それを見た間柴の目が、決まった。
「……終わりや」
静かに、しかし確かな意志を乗せて呟いた。
「うおおおおおッ!!」
間柴が地を蹴った。鋼のように鍛え上げられた下半身から、爆発的な推進力。目にも止まらぬスピードで、一直線に突っ込む。堂島の腹に、渾身のタックル。
「ッぐうッ――!!」
空気が潰れるような音と共に、堂島の体が後退する。まるで巨木を根元からなぎ倒すような破壊力。そして、そのまま――跳んだ。間柴の体が、反動を殺さず、空中へと跳ね上がる。沈み込んだ足腰をそのままばねに変え、全身をしならせ――
「……ッ!!」
空を裂くようなドロップキック。両足をそろえて突き出し、一直線に堂島の胸板を打ち抜く。
「がはっ――!!」
堂島のガードごと砕けた。 衝撃で浮いた堂島の体は、後方に向かって弾き飛ばされ、空中で一回転しながら地面に落ち、砂煙とともに転がった。
地面に叩きつけられた堂島は、うつ伏せのまま、肩で息をする。胸を押さえて咳き込む。立ち上がれない。
拳じゃない。言葉でもない。間柴の全身が突き刺さっていた。
(なんや……こいつ……なんでこんなガキに……)
そのとき、鼻腔を突いた砂の匂いが、記憶を強制的に引き戻した。
夜の工事現場。盗んだ単車をバラし、ガソリンの臭いにまみれていた、あの頃の湿った土の匂い。
(……待てや、翔太……)
這いつくばった堂島の視界の端に、泥だらけの手で笑う小さな影が揺れた。
――翔太。
笑っていた。何でもないように、あの日のように。
(翔太……俺……)
その名を呼びかけるように、手が伸びかけた。けれどその手は、地面を握りしめることしかできなかった。
対する間柴は、静かに肩で息をしている。蹴りの反動でふらつきながらも、まっすぐ立っている。その目には、もう“敵”を見る色はなかった。
ただ、一人の男として――堂島の“背負ってきたもの”を、見つめていた。




