秩序
堂島が一歩踏み出し、低い声で語り始めた。
「猛さんが一目置いてる言うから期待したが――その辺のガキやないか。お前ら“絆”や“仲間”や言うてるらしいな……あまっちょろいねん」
間柴は血を拭いながら黙って聞いている。
「必要なんは、逆らえば死ぬという絶対的な“恐怖”や。恐怖が秩序を産むんや」
(……“恐怖”を使って、秩序を守る?)
「俺らは舐められたら終わりなんや。小野原も、看板のために命を張った。……あいつを殺したお前らを許せば、俺らの居場所はなくなるんじゃ」
その言葉が間柴の胸に突き刺さる。道を切り拓くために命をかける覚悟。
「お前らも元は同じ街の奴、ただ生きる道が違っただけ。――でも、小野原をやった奴を許したら、俺らは成り立たたんのじゃ」
堂島の瞳に、もう情けは見えない。だが、その言葉の中に、間柴は違和感を感じた。
「ちょっと待てや……。俺らは――小野原やってへんで」
堂島の表情が少しだけ揺れる。だがすぐに鋭い眼光が戻った。
「……なんやと」
「俺らは小野原をやってへん。自分らを守っただけや。やったんは……お前んとこの銀髪や」
堂島の呼吸が浅くなる。
「才が……才が小野原をやったんやと? あいつが……なんのために」
「わからん。けど――事実や。俺らが狙ったんやない。小野原が、俺らを狙ってきたんや」
堂島の思考が渦を巻く。その様子を見た間柴が、静かに口を開いた。
「……その顔やと、騙されてたみたいやな。……秩序が聞いてあきれるで」
「……やかましい、ガキが。お前らみたいな半端モンの言葉、誰が信じるか!」
「なんで怒ってんねん」
間柴は一歩も退かない。
「“恐怖が必要”“甘さが死を呼ぶ”……ほう言うてたけどよ、今日ここに来たんはお前の言う“仲間”への返しと違うんか? それが“仲間”に対する、お前なりのケジメやったんちゃうんか!」
「黙れッ!!」
堂島の怒声が空気を裂いた。
「お前らみたいなファッション感覚で不良やってる奴らと、俺らを一緒にするな!」
堂島は深く呼吸し、自分に言い聞かせるように呟いた。
「昔、仲間を信じて死んだ奴がおった。絆? そんなもんで組織は守れへんのや」
「違う……」
間柴の声は、氷のように冷静だった。
「怖いんやろ。信じることが。壊れることが。――でも、そんなん俺には関係あらへん」
堂島を、正面から見据える。
「もう、今のお前からは怖さも威厳も感じへん。ただ――信頼を築くことから逃げてるだけの、弱虫や」
沈黙。堂島の全身が凍りつく。拳が震え、奥歯が鳴る。
「……殺す」
その声は怒鳴りではなかった。
心の底にこびりついた泥を吐き出すような、逃れられぬ呪詛だった。




