襲撃
日が暮れる頃、春也は自転車を引きながら、無言でジムを出た。京志と出会ってから、眠っていた何かが目覚めたかのようにジムに通っている。
街灯のない道を歩いていると、気配を感じる。人気のない細道に五、六人の影がうごめいていた。
いたのは――江藤。
マスクを少しズラし、間抜けな口元で近づいてくる。
「よぉ、チャンピオン」
春也は眉ひとつ動かさなかった。が、その足は止まっていた。
「正味な話、俺らのケツ拭く気ないんやろ?」
「……なんやねん、いきなり」
「ずっと見とったで。すっかり加賀谷にとりこまれちゃってよぉ……まぁチャンピオン気取っとっても、所詮はスポーツマンや。“本物の喧嘩”知らんやろ?」
その言葉と同時に、背後で、コンクリートを金属が擦る不快な音がした。
春也が振り向くと、川上が鉄バットを構えていた。
「お前には失望したわ。せやから、落とさせてもらうわ……」
背後から迫るバットの風切り音。春也は上体を沈め、軌道を紙一重で逸らす。その旋回の遠心力を、そのまま拳に乗せた。がら空きの顎へ、左右の連打が突き刺さる。
川上の体が、無様に地に伏した。
「はっ、お前らのケツ、代わりに拭いたったら満足なんか?」
拳を握りしめる春也。ボクシング仕込みのフットワークで、間合いを取りながら攻防を続ける。
――が、数が違う。殴り、蹴り、またバット。ついに後ろの一人に足を払らわれ倒される。鉄バットの横殴りが襲う。
――春也の肩が悲鳴を上げた。
「……お前ら……もう、人やないな……」
江藤が歯の抜けた口元を見せて笑う。
「残念。路上に、レフェリーおらへんなぁ」
言葉の着地を待たず、長い影が場の空気を裂く。
逆光に黒く塗りつぶされた男が一人。ゆっくりと距離を詰めてくる。
――加賀谷京志。




