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血環 ー大阪・西成、裏社会と少年たちー  作者: 京田 学
第1部 一章 西成第一中学
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襲撃

日が暮れる頃、春也は自転車を引きながら、無言でジムを出た。京志と出会ってから、眠っていた何かが目覚めたかのようにジムに通っている。


街灯のない道を歩いていると、気配を感じる。人気のない細道に五、六人の影がうごめいていた。


いたのは――江藤。

マスクを少しズラし、間抜けな口元で近づいてくる。


「よぉ、チャンピオン」

 

春也は眉ひとつ動かさなかった。が、その足は止まっていた。


「正味な話、俺らのケツ拭く気ないんやろ?」


「……なんやねん、いきなり」


「ずっと見とったで。すっかり加賀谷にとりこまれちゃってよぉ……まぁチャンピオン気取っとっても、所詮はスポーツマンや。“本物の喧嘩”知らんやろ?」


その言葉と同時に、背後で、コンクリートを金属が擦る不快な音がした。

 

春也が振り向くと、川上が鉄バットを構えていた。


「お前には失望したわ。せやから、落とさせてもらうわ……」 


背後から迫るバットの風切り音。春也は上体を沈め、軌道を紙一重で逸らす。その旋回の遠心力を、そのまま拳に乗せた。がら空きの顎へ、左右の連打が突き刺さる。


川上の体が、無様に地に伏した。


「はっ、お前らのケツ、代わりに拭いたったら満足なんか?」


拳を握りしめる春也。ボクシング仕込みのフットワークで、間合いを取りながら攻防を続ける。


――が、数が違う。殴り、蹴り、またバット。ついに後ろの一人に足を払らわれ倒される。鉄バットの横殴りが襲う。


――春也の肩が悲鳴を上げた。


「……お前ら……もう、人やないな……」 


江藤が歯の抜けた口元を見せて笑う。


「残念。路上に、レフェリーおらへんなぁ」

 

言葉の着地を待たず、長い影が場の空気を裂く。


逆光に黒く塗りつぶされた男が一人。ゆっくりと距離を詰めてくる。

 

――加賀谷京志。

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