白煙
「でたで一平、やばいのんが登場や……」
江藤の前で近藤は足を止める。表情は薄く、目だけが鋭く笑っている。
「お前ら、勢いは認めたるわ――でもな、“本物の暴力”はここからや」
一平が鉄パイプを構えて前へ出る。
「なんやぁ? 大物ぶりやがって」
だが――江藤は勇む一平を腕で制した。
「お前はこないだ、気絶してたから知らんやろうけど、こいつはガチや。正面からいっても無理や」
一平は少し顔を赤らめて、唾を飛ばして言う。
「いらんこと言わんでええねん! でも、ほんならどないすんねん」
江藤はポケットから何かを取り出す。小さな発煙筒を五本――それに、着火マン。
「せやから、“煙に巻く”んやろが。俺の出番や」
赤い火花を散らした発煙筒を地面に投げる。白い煙が、駐車場に一気に立ちこめる。
江藤、煙の中に飛び込みながら叫ぶ。
「一平! いまやッ!!」
「でかしたぁ!!」
鉄パイプを手に、白煙の中へ――鈍い打撃音と悲鳴が入り乱れ、次々と敵が吹っ飛んでくる。
次々と悲鳴とともに敵が吹っ飛んでくる。
「なんや! なんやぁ!」
「ぐわっ! どこやぁ!!」
一平、暴れる。煙が視界を奪う中、本能のままに次々とぶっ叩く。
この日一番の轟音のような衝撃音が西成に鳴り響く。
同時に、白煙の外へ〝江藤〟がぶっ飛ぶ。
駐車場の端に勢いよく転がり、看板に頭をぶつけて止まった。
「……あれ……江藤……?」
蹲った江藤から声が小さく漏れる。
「おま……え」
鼻血を垂らしながら、白目を剥く江藤。うっすら意識があるのが逆に痛々しい。
一平が鉄パイプを引きずりながら駆け寄る。
「……すまん。敵か味方かわからんかったわ」
江藤は微笑を浮かべながら薄れいく意識の中で答える。
「……ウケたんなら本望や……」
一平、感極まり。
「お前……今日だけはマジでカッコええぞ」
「……ほんまか……?」
バタリ、と江藤が気を失う。その顔は哀愁を漂わせつつもどこか誇らしげだった。
――その時。煙を裂くように、ズシンと地面が揺れる。一平が身構える。
「来たな……!」
煙の向こうから、近藤が一歩ずつ歩いてくる。白煙をものともせず、真正面から。目を細め、口元だけ笑っている。
「しょうもない小細工しやがって――ボケが」
その声に、一平の背筋がゾクリと震えた。
「江藤……お前の仇は俺がとったるで」
血のついた鉄パイプを片手に引きずりながら、真正面から近藤を睨み据える。
「お前の兄貴分、小野原にな……俺は思いっきり恥かかされたんや」
近藤の眉がぴくりと動いた。
「でも今日は違う」
一平は鉄パイプを地面に立て、ガツンと音を立てて構える。
「漢”楓一平”、ここで見返したる。江藤の借りも含めて――“ 喧嘩実力超一流”、証明したるんや!」
気絶した江藤がピクリ! と反応したような気がした。




