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血環 ー大阪・西成、裏社会と少年たちー  作者: 京田 学
三章 西成公道百鬼夜走
55/87

虚偽

闇天狗の根城・地下倉庫。打ち捨てられたコンクリの壁には、汚れた旗が掲げられていた。


― 闇天狗 ● 西成公道百鬼夜走 ―


無数の傷と染みが、その歴史を物語る。そこに、堂島が駆け込む。


「猛さん!  小野原が……やられました。重症。救急搬送中です。現場は……26号沿い、大国町付近。大規模な乱闘やったようで……」


「……乱闘?」


「オマワリも動いてます。完全に……抗争扱いです」


ギィ……扉の軋み。油のにおいと共に、ゆっくりと姿を現したのは――才。顔に傷、服は乱れていたが、その目だけは不気味なほど澄みきっていた。


「……現場におった。説明する」


堂島が警戒の視線を向けるも、猛が目で制す。


「小野原と遊撃隊、十四名。街の“見張り”って話やったのに……囲まれた。京志一家が待ち伏せてた。完全な罠や」


猛の眼光が光った。


「誰の仕掛けや」


「後藤竜。あいつが、真っ先に小野原に突っ込んできた。……殺す気。迷いがなかった」


その言葉に、一瞬倉庫内の温度が下がる。

その時、もう一人――土埃まみれの姿で近藤が姿を現す。右手に包帯。目は腫れ上がり顔には泥。足取りが重い。猛が近藤に急かすように呟く。


「お前も現場におったんか。説明せえ、近藤」


近藤は沈黙のあと、短くうなずいた。その目には、才を刺すような怒気が宿っていた。


「……はい。俺と数名、小野原の命令で現場入りしました。街の“様子見”という話でした。けど……現地に入った途端……」


「……向こうが先に仕掛けてきたんか」


近藤は一瞬だけ目を伏せる――才の視線を感じながら、拳を握り直す。


「……はい。」


  才が口を開く。


「小野原は俺が担いで逃がそうとした……でも、あいつら殺すつもりで来とった」


近藤がその一言にビクリと反応。視線が才に突き刺さる。


(――小野原さんをやったのはお前やろ。だが言えない。今ここで言えば、猛の“問い”がすぐに突きつけられる。)


** 「命令に背いたんは誰や」 **


と。闇天狗で上の言うことに背くことは絶対に許されない。猛の命令を無視して“突出”を咎められれば、それは才の正体を暴くことと同時に、自分自身の処分に繋がる。才はその“綻び”を見越して黙っている――それが一番、近藤の怒りをかき立てた。


だが――堂島が立ち上がる。


「……遊撃隊が、やられたんか」 近藤の息を呑む音が聞こえる。


「……はい」


一拍置いた後、静かに猛が口を開く。


「理由もなく、うちの隊が狙われるとは思えん。ほんまに……先に手ぇ出したんは向こうか」


近藤は数秒、目を閉じる。

才の澄んだ目が、**“喋ってみろや”**と語っていた。


「……間違いないです」


堂島が噛みしめるように猛に向かって言葉を吐く。


「京志一家……これはもう、“身内の諍い”ではすまんのでは? こうなったら戦争ですわ」


猛は目を閉じて答えた。


「……せやな。これはもう、俺らへの宣戦布告や」


重々しい一言のあと、猛の視線が才へ。


「才……お前と俺の確執は、今は一旦忘れろ。これは“闇天狗の問題”や。わかるな」


才は静かに、うなずく。


猛が目を見開いた。


「――第三土曜。第三土曜にケジメをつける。戦争や! 全員に連絡入れろ」


「押忍!!」


堂島が飛び出していく。だが近藤はその背を追わず、ただ才を睨みつけたまま――動かない。

才は去り際、小さく呟いた。


「なあ、近藤。これでお前はもう俺から逃げられへん――」


夜が完全に堕ちた。“嘘”と“怒り”と“戦争”の匂いを残して――。

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