精鋭
――少し離れた場所では、京志が囲まれていた。闇天狗・特別遊撃隊、三人。武闘派で知られる闇天狗の中でも選りすぐりの精鋭。さらに全員が鉄パイプで武装している。
「さすがに手加減できへんで」
京志が低く呟いた直後、一人が地を這うような鋭いスイングで、京志の左脛を狙って鉄パイプを振り抜いた。 まともに食らえば、骨が砕け、再起不能になるはずの一撃。 だが、京志は避ける素振りすら見せなかった。
硬質な衝撃音が夜の空気に響き渡る。 しかし、悲鳴を上げたのは攻撃した男の方だった。
男の腕には、鉄柱を叩きつけたかのような強烈な振動が跳ね返り、鉄パイプは京志の足の形に沿って僅かに歪んでいた。 京志の脚は、折れるどころか、微動だにしていない。
「お前らがなんぼ喧嘩慣れしとっても……俺は毎日がこれやった」
京志の脛は、幼少期から繰り返された過酷な鍛錬により、もはや生物のそれとは思えない密度に達していた。 鉄柱や砂袋を数万回と蹴り込み、微細な骨折と再生を繰り返したその骨は、鉄パイプよりも遥かに硬い「凶器」へと変貌を遂げている。
絶望に目を見開く男を他所に、京志の反撃が始まった。
数センチの差で別の鉄パイプをかわし、鋭い肘打ちを敵の腹部に沈める。 崩れ落ちた頭部に、鉄塊と化した膝蹴りを叩き込んだ。 続けざまに別の男の腕を掴み、手首を極めて自由を奪うと、剥き出しになった顎を拳で砕く。
最後の一人が、恐怖を振り払うように距離を詰めて殴りかかる。 だが、京志の放った回し蹴りが、空気を切り裂く鋭い音と共にその脇腹を捉えた。 人体を打つ音とは思えない重厚な衝撃が走り、敵の意識は一瞬で闇に沈んだ。
そのあまりにも頼もしい姿が、崩れかけていた京志一家の魂に更に火をつけた。
「……あんなもん見せられたら、寝とるわけにいかんやろが!」
脇腹を押さえ、吐血しながらも春也が立ち上がる。その瞳には、先ほどまでの絶望を焼き尽くすような執念が宿っていた。
「いくぞ、おらぁ!!」
間柴の咆哮が夜気を震わせ、敵を薙ぎ倒す。
江藤は溢れる涙を拭うこともしないまま、恐怖を怒りに変えて拳を叩きつけた。
京志という絶対的な「柱」が揺るがないことで、少年たちは泥沼の戦場に再び踏みとどまった。
だが――。 西成という修羅場で名を馳せる「闇天狗」の看板は、それ以上に重かった。
「なめんじゃねぇぞ、ガキどもがぁ!」
鼻骨を砕かれ、顔面を真っ赤に染めた遊撃隊の男たちが、生気のない瞳で再び立ち上がってくる。 彼らの動きには、もはや痛みへの恐怖がない。 焦点の合わない目で血の唾を吐き捨て、折れた指を無理やり握りしめて前に出る。 一人、また一人。確実に仕留めたはずの獣たちが、死の淵から這い上がるように距離を詰めてくる。
「こ……れが“闇天狗”」
江藤の震える呟きが、戦場の空気を凍りつかせた。 格上の暴力。命を削り慣れた者たちだけが持つ、どす黒い執念。 京志一家の勢いが、再びその分厚い壁に押し返されようとする。まさに一進一退。




