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自立
――小野原の拳が、春也の顔面を無慈悲に歪ませた。拳が重いだけでなく春也の体が、もう限界だった。視界が滲む。肩がもう上がらない。
小野原は余裕の笑みを浮かべ、春也の胸元を掴む――
「早い引退やったのぉ」
拳を引き、鳩尾に全体重を乗せた拳を打ち込もうとした、その時――
「やめぇ」
春也の前に割って入った男の腕が、その拳を受け止めていた。――竜。
「なんや……ずっと後ろで震えとったおぼっちゃま君やないか」
小野原が嘲笑うが、竜の瞳は狂気とも、覚悟ともつかぬ炎で揺れている。
「ほんまにええんか? これ、猛さんへの反逆やぞ」
竜の肩が跳ねた。震えは一瞬で熱に変わり、その瞳がどろりと濁った絶望を焼き尽くしていく。握りしめた拳から、骨の軋む音が漏れた。
「……上等や。昔からアイツの言う通りにして、残ったんはトラウマと悪夢だけや。やっとわかった――今、こいつらみたいに立たんかったら、俺の人生、ずっと負けっぱなしなんじゃ!」
竜の拳が、小野原の顔面を正面から撃ち抜く。小野原はのけぞりながらも口の端を吊り上げて笑う。
「ええやん……ほんま、ええで……!」
春也は、放心した目で二人を見つめながら、ゆっくりと膝をつく。遠くでサイレンがかすかに鳴り響いているような気がした。




