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死闘

薄暗い廊下の突き当たり。そこには、周囲の壁とは不釣り合いなほどに重厚な鉄の扉が鎮座していた。鈍い光を放つプレートには「VIP」という文字が深く刻まれている。 静寂を破り、内側から鍵の解錠される金属音が響いた。ゆっくりと開いた扉の隙間から、嘲るような薄笑いを浮かべた男が姿を現す。


「なんや、やかましい思たら……お客さんかいな」


煙草を咥えた長身の男は、スーツの上着を無造作に肩にかけていた。隙なく撫でつけられた髪とは対照的に、その眼光は野獣のように鋭い。

武市三兄弟の次男、武市海。

その佇まいには、地下の澱んだ空気を完全に支配しているかのような不気味なまでの落ち着きがあった。


「……誰やお前」


「後藤や。……後藤竜や」


「……で、なんのようや?」


「 “よう”やと……?」


竜の拳が、激しい怒りに小刻みに震える。


「俺の連れ、無茶苦茶にしやがって。今、俺は――猛烈にムカついとんじゃコラァ!!」


怒号がコンクリートの壁に反響し、廊下の奥へと消えていく。だが海は、まるで興味がなさそうに首を傾げるだけだった。


「ツレ? しょうもない。そんなもんのために、死にに来たんか?」


「コードネームで呼び合ってるお前らが言うんか」


竜の声は静かだった。だがその言葉には、芯から燃え上がる烈火のような怒気が宿っていた。


その時、背後の扉が乱暴な衝撃と共に蹴り破られた。


「ちょっと待てや、後藤ッ!!」


階段を駆け下りてきたのは、三中軍団の面々だ。誰もが怒りで眼を真っ赤に充血させ、拳を固めている。


「加藤やったんこいつらやろ」 

「ウチもなめられて黙ってられへんのじゃ!」


竜が冷ややかに振り返る。


「……こっちも、間柴やられとんねん。お前ら、いねや」


竜の放つ鋭い威圧感に一瞬たじろぐ男たちだったが、彼らの憤りは収まらない。


「このまま、なめられて終わったら笑いもんや、こいつらは俺らがもらうで!」


騒然とする空気の中、奥の闇から重苦しい足音が近づいてきた。 現れたのは、見上げるような巨躯の男。長男の武市響だ。上半身を晒し、ズボンをずり上げながら、だらしなく笑っている。全身にまとった筋肉の鎧からは汗の臭いが漂い、つい先程まで女を抱いていたかのような生々しい気配を放っていた。


「ふぁ~、えらい騒がしぃの~。人が楽しんどるっちゅうのに……」


その異様な風体に、その場にいた全員が本能的な恐怖で身を強ばらせた。しかし、静寂を切り裂く叫びと共に、三中生の数人が勢いに任せて突っ込んでいく。


「おらぁぁあ!」


刹那、肉がひしゃげる衝撃音と、何かが砕け散る破壊音が連続した。男たちは壁に叩きつけられ、骨の折れる嫌な音が響き渡る。その惨状に、一瞬で空気が凍りついた。


「…あ、あかん……こいつ」 

「ムリやろ……」


本能的な恐怖に顔を引きつらせ、数人が背を向けて逃げ出そうとした、その時。


乾いた破裂音が天井に響いた。


あまりにも非日常的なその音に、誰もが呼吸を忘れ、足を止める。配管の影から、金髪アフロの細身の男、三男の武市リクが姿を見せていた。 笑顔を浮かべる彼の手には、一丁の拳銃。


「……どこ行くん? 逃げるんナシやで?」


数人がその場で失禁し、腰を抜かす。リクは心底楽しそうに、常軌を逸した声を上げた。


「射的ゲームや。どこ的にする? 足? 指? 耳?」


竜は震える足に力を込め、拳を握り直した。場は一気に狂気と怒気に塗り潰され、誰もが声を出すことすらできない。そんな中、竜だけが一歩、前に出た。


「……警察署襲った、いう噂……」


低く、震える声で口を開く。


「ほんまみたいやな……」


海が口角を吊り上げ、嘲笑を浮かべた。


「大袈裟やなぁ……警察署ちゃうで。ちっちゃい交番や」


リクが踊るような足取りで、銃口をひらひらと動かす。


「兄ちゃん、コイツやっちゃってええ?」


だが、その問いが終わる前に、竜の足はすでに地を蹴っていた。

狙いは眼前の響。みぞおちのど真ん中へ、一点に集中した一撃が突き刺さる。

低い呻き声と共に、響の巨体がわずかに揺らいだ。


「ほぉ……」


リクが初めて目を細め、興味深そうにその光景を見つめる。響は腹を押さえ、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、暗い殺気で赤黒く染まっていた。


「……殴られたん、ひっさしぶりやなぁ……」

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