激昂
西成一中・裏のガレージ。春也が愛車のCBXを工具でいじり、竜はタバコを吸いながらぼんやりしていた。京志は黙って、ただサンドバッグを殴っていた。
――そのとき、鉄扉が何かにぶつかる激しい音と共に、勢いよく開け放たれた。
「……っハァ、ハァ……ッ、竜くん、た、助けて……!」
入ってきたのは青木と高松。一中の後輩、ニ年生。しばらく見ない間に、その姿はまるで“別人”。頬はこけ、目はギラギラしてて、唇が乾いて割れてる。手は震えて、息が荒い。
「お前ら……どうしたんや」
竜が立ち上がった瞬間、青木が崩れるように座り込む。
「……間柴さんが……間柴さんが俺らのせいで……ッ!」
高松が涙を堪えながら、絞り出した。
「……ブツ……買ってた。最初は軽いやつやった。でも気づいたら、頭の中ずっと痺れてて、もう何も……食えんし、寝れんし、薬のことしか……」
青木の手が震えてる。
「今日も、また買いに行ったんす。そしたら、間柴さんが来て――『何してんねんお前ら、目ぇ覚ませ!』って……」
「怒られるって思った。でも……違った。間柴さん、俺らの腕掴んで、無理やり引き離そうとした……でも、でも……」
高松の声が潤んで途切れる。
「……間柴さん、一歩も引かんかった。でも……数が多すぎて……めちゃくちゃやった。それでも最後まで俺らのこと……」
青木が泣き崩れた。
「俺らのせいや……間柴さん、病院運ばれて……なんで俺ら……こんなことに――」
肉を打つ重い音が響いた。気づいた時には、青木の顔面に竜の拳がめり込んでいた。
「は――がッ……ッ!!」
青木の体が横に吹っ飛ぶ。口から血が吹き出した。
「ア”ァ”ッ! 何、泣いとんねんボケェ!!!!」
今度は高松の胸ぐらを掴んで、壁に叩きつける。
「間柴に庇ってもらった? 意識ない? かわいそう? ――フザけんなや……お前ら、何をしとってん! 何で“買う側”におってん! なんでそのまま逃げてんねん!!」
高松の鼻腔へ、容赦のない膝蹴りが突き刺さる。軟骨の砕ける感触と共に、赤黒い液体が飛び散った。
「 “守ってくれた”ことに感謝して泣いとるんちゃうやろな? お前らがやったことは、間柴の命を削らせたってことや!!」
竜の眼は完全にイッていた。青木が床に這いながら、血を吐きつつ泣きながら謝る。
「すんません……すんません……」
拳は止まらない。春也が叫んだ。
「竜!! やめろッ!! 殺す気か!!」
「――殺す気やボケがァァ!! 何もわかってへんクソガキが、“簡単にブツに手ぇ出して”……死にたがっとんのはこいつらやァァアアアアアア!!」
京志が、静かに立ち上がり竜の肩に手をおいた。
「竜……、痛みで変わるやつなんかおらん……」
竜が振り向く。静寂。
春也があっけに取られたように京志を見ている。
やがて竜の声が、空気を切り裂いた。
「――間柴が何守ったか、よぉ考えろ。お前ら、死ぬ気で薬抜いてこい。無理やったら俺が殺したる」
青木と高松は顔を腫らして、涙と鼻血と唾液でぐちゃぐちゃになりながら、ただ黙って頷いた。
「これ武市って金髪アフロの奴からです……」
そう言って高松が間柴の血で染まったバンダナを竜に差し出した。
竜はそれを黙って受け取り走って飛び出して行った。




