侵色
放課後、赤く染まる空の下。間柴健はひとり、帰りの道を歩いていた。いつもの商店街を抜け、細い路地に差しかかったそのとき――ゴミ捨て場の奥で、ヒップホップファッションに身を包んだ数人の若者が、一中の制服を着た二人に、何かを手渡している。
界隈では見かけない面々に間柴は眉をしかめた。
「……おい、なにしてんねんお前ら」
振り返るのは、紫のバンダナをつけた男数名。目の焦点が合っていない。
「お前ら、2年の高松と青木やんけ! 学校こんと思ったらお前ら……」
スキンヘッドの男が、威圧的な態度で間柴に詰め寄る。
「あ? なんやねんお前。部外者が口出してくんなや」
「ここは地元や。何勝手にばらまいとんねん。それに、こいつらは同じ学校のやつや」
別の男がクスッと笑った。
「なんや中坊か……でっかいのぉ。ほんでなんや正義ヅラか? 痛い目見とくか?」
一瞬の沈黙の後――一人が突っかかってくる。間柴は覚悟していたかのように構える。
「……そう来る思てたわ」
ラグビー仕込みの低い重心、強烈なタックルで一人を吹っ飛ばす。それを皮切りに。二人、三人と男たちが間柴に一斉に襲いかかる。鉄パイプ。警棒。感覚がバグった連中の容赦ない暴力。四方から殴られつつも間柴は一人気をはいた。
「地元で、好き勝手されてたまるかい……!」
拳一発で顎を砕く。紫のバンダナが宙を舞った。
それを後ろから靴を引きずりながら歩いてくる男が拾い上げる。
「おいおいおい、すごいなこのパワー系のお兄ちゃん」
公園の奥、鉄棒の陰から現れた一人の男。その金髪アフロとブカブカのバギージーンズは目立ちすぎるほどの異物感を放っていた。
「お前西成一中のやつやろ? 京志一家いうやつか? ……噂通りおめでたい奴らやなあ」
下卑た笑いをみせながら異様なほど軽い足取りで、リクが距離を詰める。
ポケットから何かを取り出した。鋭く煌めいたそれは、指に仕込んだ金属製のツメだった。
「お前みたいな“正義マン”、ほんま、ムカつくねん」
言葉と同時に、男の右手が間柴の顔を目掛けて一直線に突き刺さる。
「うあ゛ッ!」
目を抉るように突き出されたツメが、間柴の右目に突き刺さり視界が真っ白に染まる。
「かすっただけやんけ。大袈裟なやっちゃな」
男は狂ったように笑いながら、バットを手に取った。バットには乾いた血のような赤茶色の跡がこびりついている。
「目がダメになったら……次は脚や」
フルスイングされたバットが、右膝を深々と捉えた。
耳を塞ぎたくなるような鈍い破砕音が、夜の公園に響き渡る。
「ぐ……う、がぁあああッ!!!」
倒れ込む間柴に、手下たちは手慣れた手つきで、容赦なく縄を巻いていく。
「間柴さん!!!!」
高松と青木が叫ぶ。
「おいゴミども、京志って奴に伝えとけ “来るな”ってな。……そう言うたら来そうやん」
リクはわざとらしく嘲るように笑い、高松の耳元で囁いた。
「こっからやで、“一中狩り”は……。全員、殺したるから見とけよ。俺は武市や、これ渡しとけ」
そういうと、間柴の血で赤く染まった紫のバンダナを震える高松の手に落とした。
間柴の意識は朦朧とし、目の奥の微かな火が今にも消えようとしていた。
(来んなよ。お前ら……こいつらは……あかん)
目の前が真っ暗に包まれた。




