表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血環 ー大阪・西成、裏社会と少年たちー  作者: 京田 学
第1部 一章 西成第一中学
15/87

賞賛

ある日、施設はほんの少しだけ、優しかった。


「竜! やったやんけ。お前もやったらできるやないか!」


施設で作文を書いた。親に向けての作文。親の顔や愛情など一切しらない。絵本の巻末を真似ただけ。けど、それが作文コンクールの「佳作」に選ばれ、皆が褒めてくれた。


初めての「評価」に、心がざわつく。――もしかして俺、ちゃんとできるんちゃうか?


その足で、兄の猛に見せに行った。夕暮れの廊下。明かりの届かん、その奥で。


「……兄貴、これ、俺……」


竜が差し出した作文用紙は、無慈悲に叩き落とされ、床に舞った。


「はぁ? 何調子乗っとんねん、お前」


「兄貴みたいになりたかってん……」


――その一言が致命傷だった。蹴りが腹に突き刺さり、肺の空気が、一瞬で抜けていく。


「俺の立場がなくなんねん。お前は“手ぇつけられんアホ”でいろ。それが俺の盾なんや」


苦しみに顔を歪めながら、竜は助けを求めるように顔を上げた。


廊下の向こう――

一人、そこにはこちらを見ている奴がいた。同じ施設の子。でかくて、無口で。

――間柴健。


竜はその目を見た。確かに、目が合った。でも間柴は、微動だにしなかった。何も言わず、すぐ背を向けた。

まるで「最初から見てなかった」みたいに。

 

竜の心の中に、ひとつだけ、確かに残った感情がある。


 “誰も守ってくれへん”。


その一行だけが、心ノートに刻まれた。そこから先の生き方は、もう決まっていた。

 

 ***


「……っ、ああっ……はあ、はあっ……!」


竜はソファの上で跳び起きた。汗が首筋を伝い、シャツが肌に張りつく。夢――いや、過去。あれは現実。


ポケットに突っ込んだままのパンの袋。握った拳に力が入り、くしゃり、と乾いた音を立てる。


「落ちこぼれが、見返すには――全部、壊すしかないやろ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ