賞賛
ある日、施設はほんの少しだけ、優しかった。
「竜! やったやんけ。お前もやったらできるやないか!」
施設で作文を書いた。親に向けての作文。親の顔や愛情など一切しらない。絵本の巻末を真似ただけ。けど、それが作文コンクールの「佳作」に選ばれ、皆が褒めてくれた。
初めての「評価」に、心がざわつく。――もしかして俺、ちゃんとできるんちゃうか?
その足で、兄の猛に見せに行った。夕暮れの廊下。明かりの届かん、その奥で。
「……兄貴、これ、俺……」
竜が差し出した作文用紙は、無慈悲に叩き落とされ、床に舞った。
「はぁ? 何調子乗っとんねん、お前」
「兄貴みたいになりたかってん……」
――その一言が致命傷だった。蹴りが腹に突き刺さり、肺の空気が、一瞬で抜けていく。
「俺の立場がなくなんねん。お前は“手ぇつけられんアホ”でいろ。それが俺の盾なんや」
苦しみに顔を歪めながら、竜は助けを求めるように顔を上げた。
廊下の向こう――
一人、そこにはこちらを見ている奴がいた。同じ施設の子。でかくて、無口で。
――間柴健。
竜はその目を見た。確かに、目が合った。でも間柴は、微動だにしなかった。何も言わず、すぐ背を向けた。
まるで「最初から見てなかった」みたいに。
竜の心の中に、ひとつだけ、確かに残った感情がある。
“誰も守ってくれへん”。
その一行だけが、心ノートに刻まれた。そこから先の生き方は、もう決まっていた。
***
「……っ、ああっ……はあ、はあっ……!」
竜はソファの上で跳び起きた。汗が首筋を伝い、シャツが肌に張りつく。夢――いや、過去。あれは現実。
ポケットに突っ込んだままのパンの袋。握った拳に力が入り、くしゃり、と乾いた音を立てる。
「落ちこぼれが、見返すには――全部、壊すしかないやろ」




