過去
――――『ムカつく目してんな』
脳裏にこびりつく言葉。大人たちに言われ続けた言葉。
ボロボロのジャージに裸足。壁に背をつけて、施設の端っこにうずくまっている少年。
それは、まだ幼かった後藤竜。
「お前は“あいつ”とは違う。どうせまた問題起こすんやろ?」
無数の声。施設の職員たちは、誰も彼を正面から見ない。――兄の後藤猛さえも。
「……すんません、施設長。竜、また勝手に抜け出して……。俺、ちゃんと見ますから」
頭を下げる猛に、施設長は目を細めてうなずいた。
「猛。いつも悪いな」
そう言うと施設長は、竜を鋭い目で睨みつけ頬を張った。
「同じ血で、なんでこんな違うねん。ボケがコラ」
顔への殴打は慣れたもの。痛みは耐えればいい。それより、怖かったのはその後。
猛が人気のないところへ竜を引きずっていく。階段下の物置、使われていない倉庫、誰も見ていない裏庭。そういう場所に連れていかれる時の冷たい手の感触は、今でも忘れられない。
「菓子、とってきたんか?」
そう言いながら、急に蹴りが飛んでくる。胃の辺りに、容赦なく。壁に叩きつけられた頭から、光が弾ける。
「ええか、お前はただただ施設をかきまわしとけ。これは俺ら兄弟のためなんじゃ」
竜が何か言いかけると、即座に平手打ち。鼻血が垂れるが泣かない。泣いた分だけ蹴られるからだ。
その瞳からは、兄弟の情などとうに消え失せていた。
「お前は“落ちこぼれ”や。俺を光らせとけ」
竜は声を出さずに泣いた。怒られるのも、殴られるのも、慣れていた。
でも――兄のその言葉だけは、何年経っても胸にこびりついて離れなかった。




