圧倒
チャイムが鳴っても、足音は届かない。校門に立つのは、後藤竜。――上半身裸。
血のついたシャツは脱ぎ捨てていた。少し前、金を用意できなかった三組の生徒をトイレで半殺しにしたばかりだ。
まるでモーセに海を割られたように、生徒たちは竜を避けて通り過ぎていく。竜のポケットには、ナックルダスター。体育倉庫から盗んできた鉄パイプは、壁にもたせかけてある。
「伝説の初代? 無敗のムエタイの息子? ――だから何やねん。殺ったら済む話やろが」
その殺気が、周囲のカラスを飛び立たせた。通りの向こうから加賀谷京志がまっすぐ歩いてくる。標的を捉えた瞬間、竜は黙って鉄パイプを掴み、突っ走る。ためらいはない。
「おらぁああああッ!!!」
京志は、わずかに身体をひねり避ける――躊躇なく振り抜かれた鉄パイプが風を裂いた。
同時に鋭い肘が、竜の脇腹を打ち抜いた。身体が横へ吹き飛ぶ。地面を転がりながらも、笑っている。
「っははははッ! ええやんけェおまえッ!!」
口元から血を流しながらも、目はギラついたまま。鉄パイプを放り捨て、今度は素手で襲いかかる。頭突き、目潰し、金的、噛みつき――手段を選ぶつもりはない。
「殺ったる……殺ったるぞ!!!」
京志は正面からはぶつからない。踏み込み、バックステップ、目の動き、全てが緻密に計算されている――鋭く、えぐるようなボディへのフック。 肉の音が鳴る。肺が潰れたような声。竜の身体がくの字に折れる。
「……まだ負けてへん。まだや……まだ……こんなもん……」
何かを背負ったその言葉とは裏腹に力が抜ける。
「まだ立つか」
京志の低い呟き。それに応えるように、竜がゆっくり膝をついた。
「……なんじゃその目は……殺す……本気で、絶対殺したる……」
血の唾を吐き、肩を震わせる。京志は、それを見下ろして言った。
「……好きにせぇ」
地面に這いつくばった竜は、泣いているようにも見えた。ただ、誰にもその顔は見せない。




