閑話 土のデザイア討伐
ニキがサンドウィッチを食べている頃。
サナ率いる勇者パーティーは四天王の一人『土のデザイア』討伐のため、大陸の西部に足を運んでいた。
土のデザイア。
その名の通り土魔法を得意としており、魔王軍幹部として城塞の建築やゴーレムの使役などで多大なる功績を残してきたらしい。
個人としての戦闘能力はあまり強くなく、しかし魔王軍の戦力強化には貢献している。勇者パーティーが真っ先に狙うのは必然と言える相手だった。
その、道中。
「……お腹空いた」
いつも通りの無表情のまま。勇者サナは小さく呟いた。
いや、『いつも通り』に感じるのはニキくらいのもので、他の面子からして見れば不機嫌さを周囲にまき散らされ、たまったものではないのだが。
サナの少し後ろを歩きながら、勇者パーティーの面々は小声で相談する。
(おおい! 何であんなに不機嫌なんだよ!?)
(決まっているでしょう!? ニキ君がいないからですよ!)
(不機嫌になるかもとは思っていたけど、まさかここまであからさまだとはねぇ……)
どうしたものか、と頭を悩ませる三人。
(というか腹が減ったって。さっき食べたばかりじゃねぇか)
(ニキ君がいないから干し肉と黒パンですけどね)
(空間収納で食料は持参できても、料理ができる人はいないものね。盲点だったわ)
いつもはニキに食事を作ってもらっていたので、今回もその流れで食料を準備し、王都から離れた一日目で気づいたのだ。うちのパーティー、ニキ以外ではまともに料理ができないじゃないかと。
それでも最初の頃はなんとか料理の真似事をしたり食材の丸かじりをしたりして飢えを凌いでいたのだが……。やはりいつもとは勝手が違うせいか早々に食料は浪費してしまい。今は空間収納の奥に放置されていたり道中の村々で買い集めた干し肉・黒パンで飢えを凌いでいる状況だった。
勇者パーティーとしての強権を振るえば村から生鮮食品を出させることもできたが……四天王の領地に近く、厳しい生活を強いられている村の人々からさらに食料を取り上げるのはさすがにできなかったのだ。
「お腹空いた」
繰り返すサナ。それだけで周囲の気温が下がったような気さえする。
(だから! さっき干し肉と黒パンを食べたじゃねぇか!)
(もはやニキ君の手料理以外は食事と認めない系なのでは?)
(昔は食事を抜くことすら珍しくなかったのに……。ニキ君も順調に胃袋を掴んでいるのね……)
(ったく、二人の関係は微笑ましいが、巻き込まれるこっちはたまったもんじゃねぇぜ)
(やっぱりニキ君には復帰してもらいませんと)
(そうね。防御結界の三重掛けくらいで納得してくれないかしら? 魔力は消費するけど、勇者が不機嫌でいるよりはマシだものね)
王都に帰ったらニキに頼み込もう。そう決意する三人だった。
◇
土のデザイアの居城は、石造りの巨大な城であった。デザイアはこのような城を各地に建築し、魔王軍の攻勢を支えているのだ。
「……また硬そうな城門だな」
ガルスが忌々しげに呟いた。勇者接近の報はあちらにも届いているらしく、見上げるほどの大きさの城門は固く閉ざされている。
素材はおそらく岩。天然物ではなく、土魔法を使って生成したのだろう。あれを破壊することなど不可能だ。
城門を開くのを待つか。あるいは城壁をよじ登って潜入するか。潜入の場合、巨漢であるガルスは苦労するのであまりやりたくはない――などと考えていると。
「――お腹、すいた」
まるで警戒することなく。
サナが一人で城門に歩み寄っていった。
もちろん城側から攻撃魔法による迎撃があるのだが、『勇者』であるサナの防御結界を抜けるものは皆無だ。まるで散歩をするかのような歩調でサナは城門にたどり着き――
「――お腹、すいた」
もはや勇者と言うより、バケモノと呼んだ方が適切か。
サナは『ぬるり』と聖剣を抜き放ち、城門を切り上げた。
轟音。
土埃。
少し離れた場所で身を隠していたガルスたちの元にまで衝撃波が到達する。
「……おいおい」
土埃が晴れたあと、そこにあったはずの城門は完全に消滅していた。それどころか城壁すらも両断され、残骸となった石が崩れ落ちている。
今までのサナは、ここまでではなかったはずだ。
まだ常識の範囲内で勇者をやっていた。少なくとも、聖剣の一振りで城壁と城門を破壊するような真似はしなかったはずだ。
「……なんか、こう、ヤバくねぇか?」
「周りへの被害が凄そうですね……あぁ、今まではニキ君に配慮して、力を抑えていたとか?」
「あるいはニキ君がいるから手加減していたんじゃない? あの子なりの乙女心で」
「……どちらにせよ、これからは容赦なく力を振るうってことか」
「案外早く魔王も倒せそうですね」
「こっちにも被害が来そうだけどね。防御結界、もう一枚追加しようかしら……」
そんなことを相談しながら、サナの後に続いて城の中に入る三人だった。
もはや、一人で先行するサナの心配など、誰もしていない。




