サンドウィッチ
「あ、そうだ」
冒険に出るという話で思い出した。
「帰ってきたサナたちのために何か料理を作ってあげたいんですよね」
「お、そりゃいいな。ニキがいなくて日々の食事の大切さが身にしみているだろうからな。そこで胃袋を掴んだらイチコロってやつよ」
「イチコロって」
料理を出してイチコロという表現は……僕が毒を盛るみたいじゃない?
「とはいっても俺の料理はだいたいニキに伝授しちまったからなぁ……。おっ、そうだ。最近面白い料理が王都で流行しているんだよ」
「面白い、ですか?」
「おう。西の方に領地を持つ『サンドウィッチ伯爵』とやらが考えた料理でな」
「伯爵――お貴族様が料理を、ですか?」
「珍しいだろ? なんでもそのサンドウィッチ伯爵ってのは魔物狩りが趣味みたいでなぁ。狩猟中、馬に乗っているときでも手軽に食べられるようにと考え出したらしい」
「へぇ」
馬に乗っているときは手綱を持っていないといけないからね。歩いているときはもちろん、止まっているときも安全のために最低でも片手は手綱を握っていた方がいい。
となると、片手で食べられるご飯なのかな? いやでもお貴族様が手づかみでご飯を食べるというのはあり得ないのでは?
僕がそんなことを考えていると、親爺さんは実際に作ってくれるみたいだった。
用意したのは真っ白なパン。庶民が普段食べているのは黒パンなので、なるほど確かにお貴族様が考えた料理なのかもしれない。
親爺さんはまずパンを横に切り、その間に塩漬けにしたベーコンを挟んだ。
「完成だ」
「……えー?」
単純すぎない? 料理と呼んでいいのそれ?
僕が「うわぁ」という顔をしていると、親爺さんはうんうんと頷いていた。
「言いたいことは分かるぜ。この程度のものを料理と呼ぶ伯爵をぶん殴りたいんだな?」
「なんでですか……」
貴族を殴ったら僕だけじゃなく生まれた村ごと滅ぼされかねない。身分制度とはそういうものだ。そもそも料理くらいで殴らないし。
「だが、見た目と単純さで判断しちゃいけねぇ。ベーコンとパンで腹は膨れるし、肉と塩は疲れた身体に効く。なによりいいのが片手で食えるって点だ。普通の料理だとどうしても座って食わなきゃいけないが、これなら食べ歩きもできるからな」
「はぁ……」
食べ歩き。たしかにそれはいいかもしれない。
でもなぁ。食べ歩くことを考えれば別にサンドウィッチでなくてもいい。今も街の屋台では串焼きが売っているし。
あー、でも、肉とパンを一緒に食べられるのはいいかもしれないね。
試しに一口。
……うん、お肉の塩気をパンが受け止めて、これはこれで美味しいかもしれない。
でも味が単純というか、ずっと食べていると飽きてきそうな……。これはもうちょっと工夫が必要かもしれない。
たとえばお肉と一緒に別の食材を挟んでみるとか。
飽きないように一つ一つの大きさは小さくして、肉以外にも様々な食材を挟んでみるとか。
うん、面白そうかも。ちょっと色々試してみたいかもしれない。
……問題は、白パンは高くてそう気軽に『色々試して』みることができないことかな。黒パンは硬くて、とてもではないけど片手での食べ歩きには向かないし。
まぁ、でも、サナたちは命を賭けて戦っているのだし、王都でのほほんとしている僕がお金を惜しむのもどうかと思うよね。
「じゃあ、色々試したいので、いくつか白パンをいただいてもいいですか? 明日からでもいいので……。もちろんお金は払います」
この食堂には立派な釜があって、自分でパンを焼いているんだよね。これは半分くらいお袋さんの趣味だったりする。
ただし、釜に火が入ってないと準備するのも大変なので、明日からでもいいという提案だ。
「おっ、気前がいいじゃねぇか」
「はい。サナたちは命がけで頑張っていますからね。せめて豪勢にお出迎えしませんと」
「泣かせるじゃねぇか。いいぜ、白パンくらいタダでくれてやる――」
「――あんた?」
魔王すらもたじろぎそうな凄みのある声を上げたのはお袋さん。そりゃそうだ。白パンなんて原材料費だけでもとても高価。それを『タダでくれてやる』なんて発言した日には……。
「……お、おう、そうだな。ここで値引きしてもニキの心意気に水を差しちまうか! 適正価格! 適正価格で売ってやるよ!」
冷や汗を流しながら。ニカッと笑う親爺さんだった。




