親爺さん
「サナたちは元気かなぁ?」
冒険者ギルドを出た僕は小さく呟いた。いやまぁいくら四天王相手とはいえサナたちが負けるはずがないから、心配なのは健康面だ。
ケガや病気は聖女であるアイリスさんが治してくれるけど、それでもケガをすれば痛いし、病気になれば苦しいからね。なるべく元気でいて欲しいのだ。
あと、心配なことがあれば食べ物かな?
なにせサナって放っておくとすぐ食事を抜いちゃうし、保存食で満足しちゃうからね。僕が毎食用意しなきゃいけなかったのだ。
(……あ、そうだ。食事と言えば)
王都にある食堂・黒猫亭に向けて歩き出す僕。
王都に来てからは少しでもサナに美味しいものを食べてもらおうと料理の修業みたいなものをしたんだよね。そのときお世話になったのが黒猫亭だから、一応勇者パーティーを抜けたって報告しておくことにしたのだ。
それに、久しぶりに親爺さんの料理が食べたいし。
何にしようかなーっと考えていると黒猫亭に到着。王都では珍しくもない二階建て・レンガ造りの建物だ。一階が店舗、二階が住居になっているのも基本的な構造となる。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃ――なんだいニキじゃないか。ひさしぶりだねぇ!」
僕が店内に入ると、まずはお袋さんが出迎えてくれた。
ちなみに黒猫亭を営むご夫婦は親のいないサナや僕に気を使って『親爺』『お袋』と呼びなさいと言ってくれたのだ。
サナも大人しく従っているので、たぶん二人のことを気に入っているのだと思う。
「はい。久しぶりに親爺さんの料理を食べたくなって」
「嬉しいことを言ってくれるねぇ。……おや? でももう勇者パーティーは出発したんじゃないのかい? いよいよ四天王に戦いを挑むんだってお客さんが騒いでいたけど」
「あ、はい。実は勇者パーティーを抜けることになりまして」
「――なんだって!? どういうことだい!? まさかガルスのアホにイジメられたのかい!?」
「いえ自分の意思で――」
「ちょっとあんた! 大変だよ! ニキが勇者パーティーを追い出されたって!」
ドタバタと店の奥にある厨房へ行ってしまうお袋さんだった。いや追い出されたわけじゃないんですけどー?
「――なんだと!?」
ずいっ。
と、店の奥から出てきたのは親爺さん。ギルマスであるデーニッツさんに負けず劣らず筋骨隆々な人だ。むしろ親爺さんで慣れていたからこそデーニッツさんと普通に接することができたのかもしれない。
ただし、デーニッツさんがスキンヘッドなのに対し、親爺さんは(白髪交じりながらも)ふさふさだ。
よくデーニッツさんもこの店に来るので、「このハゲ!」「なんだと若白髪!」と罵りあい、最終的に筋肉の美しさで決着を付けようとするのがいつもの流れだったりする。
「あの馬鹿息子! よりにもよってニキを追放するとは! どういう了見だ!?」
馬鹿息子、というのは勇者パーティーの盾役・ガルスさんのことだ。
実は親爺さんとお袋さんの息子がガルスさんであり、ガルスさんに紹介されてこの食堂を知ったという経緯がある。
おっと、それはともかく。今は親爺さんを止めないと。このままだとガルスさんが無実の罪でぶん殴られちゃうからね。
「いえ、追放されたわけではなくてですね。辞職というか円満退職といいますか」
「辞職だぁ? なんでまた急に? ニキは勇者パーティーで一番の古株じゃねぇか」
「いやぁ、古株であることと実力は関係ないので……」
「……確かにニキは戦闘職じゃないが、パーティーってのは戦いが全てじゃないだろう? 戦い以外で勇者たちを支えていたのがニキだ。誇っていいと思うぜ?」
さすが親子。揃って嬉しいことを言ってくれる。
「ありがとうございます。でも、戦闘時にお荷物になっちゃうのは事実なんですよ」
「ったく。ガルスのヤツ、情けねぇ。そういう仲間を守るため頑丈に鍛えてやったんじゃねぇか」
はたして『頭にゲンコツ』は鍛えるという表現でいいのかな?
なぜだか疲れた果てたように額に手をやる親爺さん。
「しかし、ニキがいなくなったらサナはどうするんだよ?」
「サナなら僕がいなくても平気ですよ」
「んなわけあるか」
「え?」
「ったく、頭がいいくせに変なところで鈍いヤツはこれだから……。それにあいつらも本当の意味で理解してねぇと見える……。ま、いいさ。一度冒険に出れば、ニキの重要さを理解できるだろ」
「重要性って」
デーニッツさんもそんなことを言っていたけれど、僕なんていてもいなくても同じだと思うけどなぁ。
まぁ彼らは優しいから、こんな僕にも何らかの役目を見出そうとしてくれているのだと思う。




