表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/55


※恋する勇者は病んでいて、魔王を見ると■の■を■いじゃうの


(サブタイトルが表示しきらないので、ここに掲載)


(一部残酷な描写あり)









 ――その姿は、『ニキ』であった。


 いかにも優しげな雰囲気。男性にしては低めの身長に、華奢な身体。男らしさこそないものの、守ってやりたくなるようなか弱さがある。


 とても勇者パーティーの一員であったとは思えない風貌であるし、一番の古株として数々の激戦を経験したとは信じられない。


 もし何も知らない人間がその事実を教えられたとしても、すぐには信じないだろう。『賢者』だと言われても冗談としか思えないはずだ。


 ニキとは、そういう少年であった。


 自らの力に限界を感じ、自分から勇者パーティーを抜けた男。勇者の思い人。世界救うべき勇者ただ一つの弱点……。


 そんなニキそっくりである『魔王』の姿を見て、サナは目を見開き、僅かに震えていた。


 勝った、と魔王は確信する。


 サナとて理屈では「ニキではない」と分かっているはずだ。しかし、頭で理解しながらも心が納得できないのが人間の『弱さ』だ。それは数々の武功を打ち立てた英雄でも、世界を救う使命を与えられた勇者でも変わらない。


「――サナ」


 ニキとまったく同じ声。声帯から模写したのだから当然だ。ニキの店に直接向かい、こうして完全な『再現』をするために情報を集めたのだから当たり前だ。


 スキルによって模倣するだけでなく、ニキという人間のデータを調べ上げてクオリティアップしたのが現在の魔王であった。見た目は完全にニキであるし、声や所作までもが同じ。サナからすれば、どうしても『ニキ』と戦うという錯覚から逃れられないはずだ。


 このまま剣を取れなくなれば、それで良し。


 戦うことを選んでも、それで良し。思い人相手ではどうやっても剣が鈍ることを魔王は知っていたからだ。


「ニキ……ニキ。ニキ」


 サナが頭をかきむしる。下を向いているので表情は分からないが、動揺しているのは確かなようだ。


 人間とは弱いな、と魔王は呆れてしまう。いくら聖剣という奇跡の装備を与えられたとしても、心を責めれば簡単に陥落してしまうのだから何の意味もない。


 それでも、時間が経てば平常心を取り戻すかもしれないと判断した魔王は音もなくサナに近づき、右腕を振り上げた。見た目こそ華奢なニキの身体であるが、中身は魔王。腕の一振りで人間の肉体を破壊することなど造作もないのだ。


 そうして。魔王がサナに向けて腕を振り下ろそうとした、その直前――


「――くさい」


 魔王の腕が、軽くなった。


 いや、腕そのものがなくなったのだ。


 聖剣のまばゆい輝きと、剣身に滴る赤い血。それを目視してやっと、サナが聖剣を抜き、我が腕を切り落としたのだと魔王は認識する。


 遅まきながら認識してしまったせいか、あるいは聖剣の切れ味が良すぎたせいか。今になって腕を落とされた痛みが魔王に襲いかかってきた。


「ぐっ、ぐあぁああぁああっ!?」


 切り口を抑え、失血を止めようとする魔王。それと同時に本能が「ニキの真似をしないと殺される」と判断する。逃げようとしても逃げ切れない。倒そうとしても倒せない。理屈ではなく本能で察したのだ。


「さ、サナ。痛いよ……何をするんだよ……」


 ニキの姿であるはずだ。


 サナが愛するニキの姿であるはずだ。


 そんな彼が片腕を失い、涙目になり、苦しげな声を上げたのだから……人間であれば心痛めるはずだ。動揺するはずだ。ためらいが生じるはずだ。


 しかしサナに取り乱した様子は微塵も存在せず。


 その瞳は、静かな狂気で満たされていた。


 サナが拾う。切り落とされたばかりの魔王の腕を。未だ変身の効果を失わず、ニキのものそっくりであるはずの腕を。


 ……そう、ニキそっくり。


 それは、ニキのものではないことを意味していた。


「教えてあげる」


 静かな。平静な。魔王を前にしているとは思えないほど落ち着き払った声。


 これは狂人だ、と魔王は思わず後ずさる。


「ニキの右腕には傷があるの。――私を庇ってゴブリンマジシャンの魔法を受けた火傷の痕が。今の私にとっては雑魚でしかないけど、あのときの私にとっては紛れもない強敵だった。そんな私を助けてくれたのがニキなんだ。格好良かったごめんなさいありがとうもっと私が上手に回復魔法を使えていたら完全に治せたのに。――でも、私を守るための傷が、ニキの腕には刻まれているんだ。ごめんなさいうれしいごめんなさいごめんなさいうれしいごめんなさいうれしい……」


 もはやサナは魔王を見ていなかった。視界を埋め尽くすのはかつて自分を守ってくれたニキの勇姿。頭の中にあるのはニキへの感謝と、贖罪の想い。そしてなにより、クオリティの低さに対する怒り。


「雑すぎる」


 サナが魔王の右腕を放り投げた直後。今度は魔王の左腕が切り落とされた。


 その痛みに魔王が絶叫するが、サナがそれを気にすることはない。


「腕の長さが違う皮膚の色も違う血管の色も汚いしニキの毛穴はもっと少ない筋肉もなさ過ぎるし骨の太さも違う爪の再現も雑だし指なんてどれもこれも骨の長さから密度まで違いすぎるふざけるなふざけるなこれで真似したつもりかニキの真似をしたつもりかニキを汚したなニキを汚したな許さない許さない許さない――」


 地面に落ちた魔王の腕を、聖剣の切っ先で解体していくサナ。彼女からして見ればニキに対する解像度の低さを教える善意(・・)からの行動であるのだが、魔王からすれば正気の沙汰とは思えなかった。


「――て、転移」


 魔王が転移魔法で逃げようとするが、最後まで呪文を唱えることはできなかった。サナが聖剣の一振りで魔王の口を横に裂き、舌を根元から切り落としたためだ。


 舌を失い、もはや喋ることすらできなくなる魔王。言語として意味を成さない絶叫を繰り返すが、サナがそれに耳を傾けることはない。


「足も駄目」


 まるで枯れ草を払うように魔王の右足が切断される。


「ニキの右足にはシルバーウルフに噛まれた痕があるの。まだ弱かった私を庇って。あんなに細いニキの足に牙が食い込んで……。シルバーウルフは絶対に滅ぼす。皆殺しだ」


 忌々しげに。何の傷痕もない魔王の右足を聖剣で滅多刺しにするサナ。


 次いで左足が太ももから切断される。


「ニキの左足にも傷がある。私が悪人に騙し討ちをされたとき、私を庇って弓を受けたんだ。毒矢だった。すぐに解毒したけど、傷口周りの肉は腐り落ちてしまった。人間は汚い。人間は卑怯だ。都合良く立場を変えるしすぐに嘘をつくし騙そうとするしニキの凄さを理解しようともしない。なんでニキはあんなものを守ろうとするのだろう? 滅ぼしてしまえばいいのに。私に『お願い』してくれればいいのに。そうすればあんな汚い生き物は絶滅するんだ。その方がいいに決まっているのに。――あぁ、でも、分かる。だからこそ(・・・・・)


 サナが笑う。にっこりと。その瞳の中にあるのは友好と、愛情と、信仰心。


「私なんて勇者じゃない。私なんて、しょせんは運が良かっただけの村人Aでしかない。――ニキ。ニキこそが本当の勇者なんだ。何の力もないままに『聖剣使い』に選ばれてしまった私を、ニキはいつも守ってくれた。何度も何度も救ってくれた。そのうえ人類までをも救おうとしている。ニキこそが真の勇者。私の、勇者なんだ」


「――――」


 もはや魔王は叫ぶことすらできない。


 直接会っただけでは分からなかった、ニキの体中の傷。


 あの優男は一体どれだけ勇者を庇ってきたのか。

 どれだけの痛みを経験してきたのか。


 まさしく命を賭けて勇者を守り抜いて――誇ってもいいはずなのに、恩に着せてもいいはずなのに。自らの力不足を悟れば、あっさりと勇者パーティーを抜けてしまったという。


 自らが受けるべき名誉も。今まで勇者を守り続けたという誇りも。彼女を庇った傷痕も。すべて無視して勇者のために、この世界のために捨ててしまった。


 あぁ、と魔王は気づく。

 あのとき、ニキに対して抱いた恐怖心は本物だったのだと。


 勇者こそが異端だと思っていた。

 恋に惑い、世界より恋を選ぶ異常者であると判断していた。


 だが、違う。

 恋に浮かれ、恋に生きる人間ほど分かり易く、御しやすいものはない。


 だが、ニキは違う。

 欲で動かず、恋で動かず。『それが正しい』と思ったなら全てを捨て去ってしまえる超越者。




 あの優男こそが、真の――




『――あ゛ぁ゛! あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛っ!』


 舌を切り裂かれたせいで、声にならない声を上げる魔王。四肢を失い抵抗することも逃げることもできない魔王の胸に、サナが聖剣を突き刺したのだ。


 いくら魔王の生命力と回復力が優れていようとも、心臓を聖剣で貫かれれば死ぬしかない。傷口からの大量出血でさえも死に至らなかった魔王の、これが致命傷となった。


「ぜんぜん違う。どこからどう見ても、ニキじゃない」


 騒がしい魔王を静かにさせるため、サナが右足で魔王の喉を踏みつぶした。


「ぜんぜん違うけど、ニキそっくりな顔が苦しんでいるのは、嫌な気分。不愉快。そんな顔をするな。そんな顔で苦しむな。気持ち悪い。不気味。――もう、見たくない」


 サナが空間収納(ストレージ)から取り出したのは、小さな普段使い用のナイフ。ニキが渡そうとしたものより小ぶりだが、ゆえにこそ細かい作業に(・・・・・・)適している(・・・・・)


「だから――その顔の皮、剥いじゃうね?」


 そうして。


 サナは魔王のアゴ骨に沿って、ナイフの刃を入れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ