勇者と魔王
人を超えた超高速移動をした私は、魔王城のすぐ手前で一旦止まった。魔王城を半円状に取り囲む結界の存在に気づいたからだ。
「邪魔」
迷うことなく聖剣を抜き、結界を門と城壁ごと切り裂く。かつて四天王の一人、土のデザイアの居城を攻略したときのように。
「……誰もいない?」
城内には人気というものがなかった。いや、魔族なので人気じゃなくて魔気と表現するべきなのかもしれないけれど。
ともかく、少しだけ警戒したものの……すぐにその無意味さを悟った。
「罠があるなら罠ごと粉砕すればいい」
なにせ魔王はニキを狙っているのだ。
普通の人間がニキを口説くのであればここまでの行動はしないし、たとえ魔族がニキと良い雰囲気になったとしても止めることはしない。なぜならニキの判断は絶対で、ニキが受け入れるならば魔族であろうとも善人であるに違いないのだから。
でも、魔王はいけない。
人間と魔族の戦いを始めた張本人。ヤツのおかげでどれだけの人間が不幸になったか分かったものではない。そんな存在がニキの側にいては、ニキの評判まで落ちてしまう。
それはダメだ。
ニキは世界一素晴らしい人物で。世界一の善人で。何も知らない人間共からの心ない言葉を投げかけられるべき存在ではないのだ。人を超え、神より貴く、創造者より偉大。それこそがニキなのだ。
そんなニキの素晴らしさに魔王が気づいたなら、やることは一つだ。
――ニキが魔王と仲良くなる前に、魔王を殺す。
ニキであれば魔王すら改心させてしまうだろう。
でも、それではダメだ。何も知らない有象無象共は魔王を危険視し、ニキすら排除しようとするはず。
そんな事態になったとき、私がするべきことは――魔王を倒すか、人間を皆殺しにするかのどちらかだ。
人間を皆殺しにしたらニキは怒るだろう。私のことを嫌いになるはずだ。
それを避けるためには、『勇者の使命』として前もって魔王を倒しておくしかない。
「…………」
勇者としての力だろうか? 魔王がどこにいるかは、分かる。
魔力は十分。
体力も問題なし。
いざとなれば逃げればいい。私と聖剣なら、それができる。逃げることなんて恥ではない。それよりもニキと一緒に過ごせなくなる方が問題だ。
ニキを守るために、魔王を殺す。
崇高なる使命を抱いた私は闘技場らしき建物の中に入った。
中にいたのは、たった一人。
魔王だ。
魔王だと、勇者としての直感が教えてくる。
こちらに背中を向けているので顔は分からない。
背格好はまるで少年のよう。人間界でスタンダードな庶民用の衣装。短く切りそろえられた黒髪……。
誰かに似ている、と思った。
彼に似ている、と私は思った。
そうして。
魔王は振り返った。
その顔は。
その姿は。
――ニキ。




