勇者、動く
翌日。
「さーて。今日も店番頑張るぞー」
寝泊まりしているパーティーハウスからお店に移動する途中、気合いを入れる僕だった。
「ん。ニキの邪魔をするクレーマーは聖剣の錆びにする」
当然のように付いてきたサナが気合いを入れていた。『くれーまー』ってなに?
まぁ、サナが変わった言葉を使うのはいつものことか。どこで覚えてくるんだろうね? やっぱりお貴族様とのやり取りかな?
そんなことを考えていると僕のお店、ガラン堂が見えてきた。
「――チッ」
サナが不意に立ち止まり、舌打ちをする。どうしたの?
僕が尋ねようとすると――サナの姿がかき消えた。まるで最初からここにはいなかったかのように。なんだか動きがどんどん人間離れしていくよね。さすがだなぁ。
ちなみにこの動きは聖剣の加護とかじゃなく、サナ自身の力だ。すごいなぁ。
「獲った」
再び現れたサナが手にしていたのは……鳥? しかも三羽も。
あぁ、いや、使い魔か。
鑑定眼を起動させた僕にはそれが分かった。
つまりサナは、鑑定眼もないのに使い魔の存在に気づき、あの一瞬で狩ってきたと?
うーん、やっぱりもう僕では動きについて行けないよね。性格は昔のまま変わらないから安心だけど。
しかし、問題は使い魔の使役者だ。
「――魔王だね」
ランクAの鑑定眼ともなれば使役者情報も読み取ることが出来るのだ。とはいえ使い魔から分かるのは名前と職業くらいだけどね。
「……魔王。やっぱり」
「やっぱり?」
まるで確信を抱いていたかのような物言いだね? いや、魔王が宿敵である勇者を監視するのは当然なのだけど……と、僕が考えていると、
「やっぱり、ニキを監視していた」
「え?」
「私じゃなくて、ニキを見張ってた。正確にはニキと、ニキのお店を」
「僕を? なんでまた?」
「……たぶん、ニキの魅力に気づいた」
「みりょく?」
「油断も隙もない」
なぜが不機嫌になったサナが、迷うことなくガラン堂のドアを開けた。一応鍵は掛けてあったのだけど……勇者の固有スキルで『開錠』があるからなぁ……。
「――チッ」
再び舌打ちをするサナだった。ちょっとー、ガラ悪いよー?
「くさい」
「え? そう? ちゃんと掃除と換気はしているんだけどなぁ」
「違う。いつものお店じゃないニオイがする」
「ニオイ?」
「ニキに興味を持った女のニオイだ。ニキが目的の、女のニオイだ」
「んー?」
サナが変な言動をするのはいつものことだけど、今日は特別変じゃない? もしかして酔っ払ってる? 僕が知らないうちにお酒飲んだとか?
サナがいないときに来店したお客さんは、あのサナそっくりな人だけだけど……僕に興味はなさそうだったし、僕じゃなくて『魔王の心臓』が目当てだったしなぁ。あとそんなニオイとかしなかったと思う。
「――殺す。魔王、殺す」
え? 魔王? あの人が?
周囲に殺気をまき散らしたサナは、踵を返して跳躍した。そのまま僕の視界から消えてしまう。
どこに行ったのだろうとキョロキョロしていると――誰かの叫び声と、何かを破壊するような音が。叫び声や破壊音はそのまま連続して鳴り響いたので、その方向に視線を動かしていくと……見つけた。王都の高い高い城壁を、一度の跳躍で飛び越えてしまったサナを。
あー、屋根の上を走って行ったのか。で、屋根から屋根へと飛び移るときの衝撃で屋根を破壊してしまったと。あとで騎士団に申告して弁償しなくちゃなぁ。
でも、あんなに急いでどこに向かったのだろう?
……あの方角は、たしか魔王城があるはずだ。
まさか、魔王を討伐しに行っちゃったとか? 何の準備も無しに? 他のパーティーメンバーを置いたままで? 偉い人から待機を命じられていたんじゃなかったっけ?
いやまぁ、サナなら一人でも大丈夫だろうけど……。
「まずはアリサさんに助けを……いやアリサさんも暴走しがちだし……ここはパーティーハウスに戻って、ガルスさんたちに報告が先かな」
そうすればアリサさんと一緒に転移魔法で移動できるからね。
僕では追いかける手段がないので、急ぎパーティーハウスに戻ったのだった。




