目標
「就職先ですか……。正直、何の取り柄もないのでどうしようか悩みどころですよね」
勇者パーティーが得た素材や財宝は山分けだったのでそれなりに貯金はある。でも、旅を続けるための費用としてかなり使ってしまったし、一生働かずに暮らせるほどの貯金ではない。
「おいおい……何の取り柄もないって? ランクAの鑑定眼持ちが何を……」
なぜか頭を抱えてしまうデーニッツさんだった。
「……まぁいい。他に就職先があるかもしれないから無理強いはしないが、冒険者ギルドで働くことも考えておいてくれ」
「ギルドで、ですか?」
「あぁ。ギルドでは素材の買い取りもしているからな。鑑定眼持ちが鑑定してくれるなら心強い」
「でも、職員さんたちでも十分なのでは? 今でもちゃんと鑑定してくれていますし」
「専門の鑑定士がいるなら他の仕事を割り振れるからな。それに見慣れない素材だと判断を誤る可能性もある」
「なるほど」
そういうことなら検討してみよう。ギルドは顔見知りばかりだからこっちも気楽だし。
そんなことを考えていると、デーニッツさんが「ふむ」と小さく唸った。
「……ニキは何かやりたいことはないのか?」
「僕ですか?」
「あぁ。もう嬢ちゃんは守る必要がないくらい強くなったし、勇者パーティーも抜けたんだ。そろそろ嬢ちゃんのお守りだけじゃなく、自分がやりたいことをしてもいい頃合いだろう?」
「…………」
やりたいこと。
それはもちろん『サナを守る』に決まっている。サナが勇者になる前から僕はサナを守ってきたし、サナが勇者に選ばれてからも守ろうと努力を重ねてきた。
でも、もうサナは僕が守る必要がないほど強くなって。
今の僕は、人生における目標とか目的がすっぽりと抜け落ちてしまっている状態なのだ。
……あぁ、なるほど。デーニッツさんはそんな僕のことを心配して問いかけてくれたのだ。何かやりたいことはないのかと。
…………。
ふと思い出したのは、あのときのサナの言葉。
『私が外でお金を稼いで、家に帰るとニキが『お帰りなさい』と出迎えてくれる。最高。がんばれる。超がんばれる。ちょっと魔王倒してくる』
サナにお金を稼がせることの是非はとにかくとして。サナを出迎えるというのはいいかもしれない。そう、サナがいつ帰って来てもいいように……。
「……お店とか、いいかもしれません」
「店?」
「はい。どんなお店かは決めてませんけど――僕の特技である鑑定眼を活かせて。王都に帰ってきたサナをいつでも出迎えることができる。そんなお店をするのも、いいかもしれません」
まるで具体性のない妄想。
でも、デーニッツさんはバカにしたりはしなかった。
「店。いいじゃねぇか。お前さんの『目』なら素材の買い取り屋とか宝石鑑定士もできるだろう。冒険者ギルドと提携してもらうのもいいな。んじゃ、さっそく商業ギルドに行って貸店舗を探すか。なるべく冒険者ギルドに近い物件で――」
立ち上がろうとしたデーニッツさんを慌てて押しとどめる。
「い、いやいや、早いですって。まだどんなお店をするかも決めてないんですから。それにまだまだやることがありますし」
たとえばパーティーハウスの大掃除とか、各所に脱退の挨拶とか。
特に大掃除。王都に帰ってくると疲れ果てて最低限のことしかできなかったから、ここは思い切って掃除してしまおう。掃除をしていればお店について何か思いつくかもしれないし。
「相変わらず真面目なヤツだ。が、ニキはそうじゃなくちゃな。よし、めどが付いたら俺に相談してくれ。俺が顔を出した方が商業ギルドもいい物件を紹介してくれるだろうからな」
「……ありがとうございます」
ちなみに商業ギルドの人が「いい物件を紹介してくれる」のはデーニッツさんの顔が広いから……というよりは、顔が怖すぎて半ば恐喝になっているのだと思う。




