閑話 魔王とニキ・2
教えられた道を通り、魔王は『ガラン堂』という店を目指していた。当然のことながら、潜入させた魔族に命じてニキがやっている店や勇者パーティーの屋敷も調査済みなのだ。
ちなみに。潜入させた魔族に『勇者の思い人・ニキ』を暗殺させるようなことはしない。なぜならニキの周りには強者が集まっているし――ニキ本人も相応の強さを持っている可能性があるからだ。
ニキという人物は自らの力不足を感じ、勇者パーティーを抜けたという。
だが、勇者の旅立ちから最近まで魔族との戦いに同行し、生き抜いてきたという事実を魔王は評価していた。
本人の自覚がどうなっているかは分からないが、実力がなければそんなことは不可能だ。潜入や裏工作に特化した魔族では返り討ちになってもおかしくはない。
さらにいえば。殺してしまってはせっかくの『切り札』を失うことになってしまうのだ。
(……勇者はニキという少年に惚れ込んでいるという)
ならば、と魔王は考える。
自身がニキそのものになれば、勇者は戦えなくなるだろうと。愛する者には刃を向けられないのが人間であると魔王は理解していたのだ。
事実、あれだけの強者であった女騎士もその実力を発揮できずに撤退を選んだ。外見だけの模倣であったにもかかわらず、だ。
見た目だけなら魔王の『力』を使えば模倣することができる。
しかし、それではただ見た目がそっくりなだけ。声質や言動に違和感があれば疑われてしまうだろう。
逆に、顔や声が同じで言動も似通っていれば、多少違和感があっても納得してしまうのが人間であり、魔族であった。魔王は今までの経験からそれを学んでいた。
だからこそ魔王は直接人間の国にまで足を運び、『ニキ』に直接会うことにしたのだ。間近で見れば完璧な擬態ができるという自信があるからこそ。
(ニキという少年はランクAの鑑定眼持ちだという。もし鑑定されれば魔王だとバレるかもしれないが……。まぁ、そのときは全力で逃げさせてもらおうかな)
事前情報にあった『常識人』であれば初対面の人間を鑑定したりしないだろうという確信も魔王にはあった。
到着したガラン堂は、何とも立派な建物であった。……いや、魔族からすれば人間たちのレンガ造りの家は全てが立派に見えてしまうのだが。魔王城や四天王の城であれば何とか石造りにできているが、それ以外では木造であることがほとんどなのだ。
その城も、土のデザイアがやられた今となっては再現することが難しい。他の魔族にも試させてはいるのだが……。もしかしたら、魔法に頼らず人間の技術を学ばせた方が早いかもしれない。
(いずれは、魔族の皆にもこのような――)
そのためには、人間との生存競争に勝たなければならない。
そのためには、勇者を倒さなければならない。
そのためには、魔王はニキそのものにならなければならない。
ゆえにこそ、魔王自身が危険を冒してここまでやって来たのだ。この国の騎士団が壊滅し、大混乱にある隙を突いて……。
(さて。魔王か出るか、神が出るか……)
魔王本人がこんな慣用句を使うことに笑いつつ、魔王はガラン堂の扉を開いた。人間界でよく用いられるドアベルが高い音を鳴らす。
と、ドアの上に『何か』があることに気づいた。
(攻撃用の魔導具……? しかも独立型とは珍しい。ずいぶんと用心深いことだ。さすがは今まで生き残ってきたことはある)
魔王がニキに対する評価をさらに上げていると、
「――はーい。いらっしゃいませー」
カウンターにいたのは、何とも華奢な少年だった。最近まで勇者パーティーに所属していたとは信じられないか弱さだ。




