閑話 魔王とニキ
魔王は怪しまれることなく王都へ侵入し、まずは長年王都で情報収集に当たっている魔族と接触した。
一見すると飲み屋で働いている普通の人間なのだが、魔王には魔族であると分かった。人間ならばよほど高位の鑑定眼持ちが鑑定しなければ気づかないだろうが。
人間は酒が入ると口が軽くなるので、酒場をやるのは情報収集にうってつけと言えた。
「これはこれは、お嬢様お久しぶりでございます」
さすが長年潜入しているだけあって『魔王様』とは軽々しく口にしない。
「今日はニキと接触するために来た」
「それは丁度いい。勇者は今騎士団の詰め所におりまして、店にはニキ一人であるはずです」
「なるほど、やはり私は運がいい。……キミから見て『ニキ』という少年はどんな人物かな?」
「そうですね……。ときどき勇者パーティーと一緒に酒を飲みに来ますが、パーティーの中心にいる人物でしたね」
「中心? 報告では裏方だと聞いているけれど」
「えぇ、たしかに裏方なのですが、あの危険極まりない勇者をよく御していますし、勇者と他の人間との仲介役をしていました。それと、よく気が利く人物なので人望もありますね」
「ほぉ」
やはり報告書だけではなく直接話を聞くべきだな、と思う魔王だった。
「そんな人物がなぜ勇者パーティーを辞めてしまったんだい?」
「もう戦闘について行けず、他の皆を危険にさらしてしまうからだとか」
「そうか」
かつては『力』を使いこなせず、他の魔族の足を引っ張っていた魔王にはニキの気持ちが良く分かった。
だが、別の可能性もあるだろう。
「そんなこと言って、魔族との戦いで死ぬのが怖くなったからではないのかい?」
「――ニキはそういう人間じゃないですね」
即答。
まさか魔族が勇者パーティーの一員だった人間を庇うような発言をするとは……。思わず目を丸くしてしまった魔王は悪くないだろう。
確かに。人間の国に長期間潜入させるのだから、途中で暴走しないよう人間への恨みを抱いていない魔族を選別した。しかし、だからといって人間に絆されるような者を派遣した覚えはないのだ。
「……面白いね。キミから見て、ニキはどういう人間だい?」
「そうですね……。勇者パーティーの一員でありながら驕らず、増長せず、店員はもちろんのこと貧民にまで丁寧に接してくれる人間です。最初は私も演技ではないかと疑っていたのですが、どうやら彼の本質はとんでもない善人であるようで」
「ほぅ」
そこまで言うのだから、ニキが仲間のことを思って勇者パーティーを抜けたというのは事実なのだろう。
勇者のことを抜きにしても興味深い人物だ。
「それと、」
「うん?」
「勇者はニキに惚れ込んでいますが……ニキも、どうやら勇者に惚れているようで」
「ほぅ、両想いというものか」
「いえ、お互いに思いは伝えていないようですので。人間界では『両片想い』と呼ぶらしいですね」
「……ふっ、両片想いか。やはり人間は面白いことを考えつくね」
できればもう少しニキについて調べたいところ。
だが、今なら厄介な勇者が側にいないという。この好機を逃しては、次にいつ接触できるか分からない。そう判断した魔王は動くことにした。
「なるほど、参考にしよう。ニキがいる店の場所を教えてくれるかな?」




