閑話 勇者と騎士
「――くそっ、目にもの見せてやるぜ」
夜。
酒目的の人間たちも寝静まった頃合いに。
ガタイの良い男性と、痩せぎすな男性が二人。路地裏に身を潜め、憎々しげな目でとある店を睨み付けていた。
ガラン堂。
ニキが引き継いだばかりの店だ。
二人はあの店で強盗をしようとして――店員の攻撃魔法で返り討ちに遭い、逃げようとしたところを出口に設置してあった魔導具で気絶させられてしまった。
「こういう稼業は、舐められたらお仕舞いなんだよ」
冒険者だった二人は、冒険者では食っていけなくなり盗賊ギルドへと転向。これからは裏社会の一員として名を上げていく予定だったのだが……最初の強盗で失敗してしまった。
……ちなみに『盗賊ギルド』と大層な名前が付いているが、ただの犯罪者の集まりであり、盗賊団という方が実態に近かった。
ともあれ、最初の仕事を華々しく終えるはずだった男二人は失敗し、盗賊ギルドからは『使えない』という烙印を押されてしまった。
冒険者も、盗賊も、舐められたらお仕舞いだ。
第一騎士団が敗北した混乱の最中に逃げ出した彼らは、『報復』をしなければならなかった。
あのときは予想外の攻撃魔法で不覚を取ったが、それさえ分かっていればあとは何の問題もない。
「兄貴、どうしますんで?」
「どうせ店主は二階で寝ているからな。まずはそいつをぶっ殺して金目のものを回収。そのあとは店に火をつけるぞ」
「ひゅう、そりゃあいい。火事になれば騎士団の連中も俺らを追うどころじゃないっすからね」
「へへっ、混乱を起こせば他の連中も盗みをしやすくなるからな。俺らもでかい顔が出来るってもんよ。これで『汚名挽回』だな」
ガタイの良い男がよくある言い間違いをしたところで、
「――ん。よく分かっている。お前ら程度では汚名を挽回するばかりで、返上することは出来ない」
男の背後から、そんな声が掛けられた。
「くっ!」
危険を察知したのか、痩せぎすな男が即座に逃走を図った。もちろんガタイの良い男は置き去りにして。
即座の判断と、素早い身のこなし。たとえサナであろうとも、一人でこの場にいたならば取り逃がしていたかもしれない。
だが、サナは一人ではなかった。
「――まったく舐められたものだな」
冷酷ながらも美しい声と共に、痩せぎすの男に激痛が襲いかかった。
「う、ぐ!? ぐぁああぁああ!? 腕が!? 俺の腕がぁああ!?」
東洋に伝わる刀。いくら切れ味鋭かろうと全力で走る男性の腕を切り落とすのは技術が必要なはずなのだが、アリサは難なくそれを実行してみせた。
「騎士団の詰め所から逃げ出し、まず真っ先に行うのが八つ当たりとは……。分かり易くて助かるが、ニキ君の店を狙ったのが運の尽きだな」
「な、な……」
目の前の光景に、ガタイの良い男は絶句してしまった。
銀髪。
そして黒髪。
王都においても珍しいその髪色は……今代の勇者と、騎士団でも一、二を争う腕前と評判の女騎士ではないか!
「くそっ! 来るな! 来るな!」
男がナイフを振って抵抗するが――そんな男のナイフを、サナは手首ごと切り落としてしまう。
「がぁああぁあああっ!?」
男の絶叫に、しかしサナとアリサは顔色すら変えない。そして誰かが路地裏にやって来る様子もなし。……良くも悪くも、この世界において人の叫び声など『よくあること』なのだ。たとえ王都であろうともそれは変わらない。
「じゃあ、さようなら」
剣を振り上げた『勇者』の姿に、男は死を確信する。――この女は、迷うことなく自分を殺すだろうと。
「ま、待て! 勇者が人を殺すってのか!?」
ぴくり、と。サナの動きが止まる。
それを『効果あり』と判断した男はさらに続けてまくし立てた。
「勇者だろう!? 勇者は人を助けるものだろう!? いくら強盗だからって、殺すというのか!? そんなのは勇者じゃないだろう!? 勇者ってのは誰よりも優しく、強く、人類を救うため――ぐぁああぁあ!?」
うるさく喋る男が不愉快とばかりに、サナが男の足に剣を突き立てた。
もはや抵抗する意志すらなく、必死に手首を握りしめて止血をする男。
そんな彼に対して。サナはとてもとても優しい笑顔を向けた。
「残念。――私は、勇者なんかじゃないよ」




