アリサの問い
僕がサナの頭をなでなでしていると、
「――ニキ君!」
バーン! っと。勢いよく店の扉を開け放ったのはアリサさん。第一騎士団員として出陣し……その第一騎士団は敗走したという話だ。
「アリサさん、大丈夫でしたか?」
見たところ、身体に欠損はなし。つかつかとこちらに向けて歩いてきているから酷いケガもなさそうだ。まぁ、騎士団であればポーションを使って多少のケガは治せるのだけどね。
敗走したことについて言及していいのかな? 知らないふりをするべき? でもそのうち王都中の噂になるだろうしなぁ。なぁんて考えていると、
「ニキ君!」
がばぁ、っと。僕を抱きしめてくるアリサさんだった。
「――よし殺す」
まぁまぁ、サナ。まぁまぁ。
アリサさんは甲冑を着込んだままだから抱きしめられると正直痛い。サナが距離を取らせようとする気持ちも分かる。
でも、アリサさんも緊迫する撤退戦で心身ともに疲れているのだろうし。人肌恋しくなっちゃったんだと思うよ?
「はわわニキ君ニキ君本物だ現実だやっぱりあっちが偽物だったかいや疑ったわけじゃないんだよニキ君が魔王軍にいるはずないものねでもやっぱりちょっと不安になってしまうというかニキ君の優秀さなら魔王軍でも出世間違いなしだしニキ君の人徳なら魔族だって従えられるだろうし『もしや』と思ってしまっても不思議じゃないよねそうだよねありがとう理解してくれて私はこれからもニキ君のために生きニキ君のために死ぬと誓うよ大丈夫大丈夫ふわぁいい匂い――」
怒濤の勢いで喋りまくるアリサさんだった。それはまぁいつものことなのだけど、いつもよりちょっと滑舌が悪くて聞き取りにくいかも? どこかで舌でも噛んだかな?
◇
ニキの店をあとにして。
アリサはサナを引き連れて路地裏へとやって来た。いかにもこれから『内緒話』をするかのような雰囲気だ。
二人とも達人の域に達しているので、誰も周りにおらず、誰も聞き耳を立てていないことは確認済みだ。それはもちろん魔法やスキルという意味においても。
「……醜態」
ニキに頭を撫でられていたときとは比べものにならないほど冷たい声と視線を向けるサナだった。
「言ってくれるな。私にだって不安に思ってしまうときくらいある」
「なにがあった? 通信魔法ではただ撤退するとしか教えられなかったけど」
「あぁ。いずれ正式な報告を行い、勇者パーティーにも情報共有されるだろうが……その前に、一つ問いたい」
一旦言葉を切ったアリサは、不自然なまでに真剣な声で問いかけた。
「――キミは、ニキ君を殺せるかな?」




